イギリスの治療院の形態
イギリスの医療システム
イギリスと日本の治療院・医療システムの違い
日本では、筋骨格系の怪我や症状を治療する際、接骨院や整形外科、鍼灸院などの国家資格を持つ施術者が開業する治療院、または医師がいる病院を受診するのが一般的です。
一方、イギリスでは医療システムが日本と大きく異なり、治療院の形態や資格の制度も日本とは大きく違います。
イギリスの医療システム
イギリスの住民は国民健康サービス(NHS)に加入しており、NHSの病院を受診すれば基本的に無料で医療を受けることができます。各自がかかりつけ医(GP:General Practitioner)を登録しており、どの症状でもまずGPを受診し、必要に応じて専門医や画像診断を紹介してもらうという仕組みになっています。
しかし、NHSには日本の接骨院のような治療院は含まれていないため、接骨院に相当する施術を受ける場合は全額自己負担となります。
NHSの課題:予約の取りづらさ
「NHSの整形外科を受診すれば無料なのだから、みんなそうするのでは?」と思うかもしれません。しかし、NHSは無料であるがゆえに予約が非常に取りづらいという現状があります。
日本の整形外科のように、予約なしで直接病院へ行き、その場で画像診断を受けることはほぼ不可能です。GPの紹介が必要なため、整形外科を受診するまでに数週間待たされることが一般的で、「今すぐ治療を受けたい」という人にとっては、ほとんど役に立たないシステムになっています。
また、GPはあらゆる疾患を診る必要があるため、専門知識が十分でないことも多く、せっかく予約を取っても「よく分からないから」とりあえず痛み止めを処方されるだけで終わり、整形外科に紹介すらしてもらえないケースも珍しくありません。
治療へのアクセスの難しさ
このような状況のため、イギリスでは日本と比べて治療へのアクセスが非常に悪く、金銭的な余裕がないと適切な治療を受けるのが難しいのが現実です。
NHSとは別に、全額自己負担の整形外科病院も存在しますが、治療費が非常に高額である上、NHSの病院に比べると経験の少ない医師がいることもあり、信頼できるドクターを探すのが難しいという課題もあります。
全体的に、イギリスでは「無料だが受診が困難なNHS」と「高額だが自由に受診できる私立病院」の二極化が進んでおり、日本のように気軽に整形外科や接骨院を利用できる環境とは大きく異なっています。
理学療法士の開業
イギリスの治療院と開業資格
イギリスでは理学療法士(フィジオセラピスト)にも開業資格があり、治療院の中で最も多いのは理学療法士が個人経営するクリニックです。
また、カイロプラクティックセラピスト、スポーツトレーナー、鍼灸師も開業資格を持っており、理学療法士に次いで多いのがこれらの資格取得者によるクリニックです。
「Physiotherapy Clinic」などと検索すると、多くの治療院が見つかります。日本の接骨院に相当するような治療を受ける場合、これらのクリニックを利用するのが一般的です。
開業のハードルと質のばらつき
イギリスでは開業のハードルが日本より低いため、個人経営のクリニックが非常に多いのが特徴です。その一方で、経験豊富で信頼できるクリニックを見つけるのが、日本よりも難しいという課題もあります。
主な治療・施術
イギリスで主流の治療法:マニュアルセラピー(徒手療法)
イギリスでは、**マニュアルセラピー(徒手療法)**が主流の治療法とされています。マニュアルセラピーには、以下のようなテクニックが含まれます。
トリガーポイントリリース
深部組織マッサージ(スポーツマッサージ)
モビリゼーション(関節可動域の改善)
関節マニピュレーション(関節の調整)
リンパドレナージュ(リンパの流れを促す)
これに加え、運動療法も併用されます。多くのクリニックにはジムが併設されているか、ジムスペースが設けられており、その場でリハビリを行ったり、フォーム指導を受けたりすることが可能です。
物理療法の使用と追加料金
一部のクリニックでは、以下のような物理療法を取り入れているところもあります。
ショックウェーブ(衝撃波治療)
超音波療法
TENS(経皮的電気神経刺激)
しかし、これらの施術は徒手療法と組み合わせて提供されることが多く、追加料金が発生するケースが一般的です。
興味深い点として、イギリス人の患者は徒手療法を好む傾向があります。これは、物理療法が高額であることも一因かもしれません。
施術料金の相場と費用感
イギリスでは、施術は全額実費となるため、費用は日本と比べて高額に感じられるかもしれません。さらに、通貨(ポンド)の価値が円より高いこともあり、日本の料金と比較すると割高になります。
施術料金の相場は以下の通りです。(※£1=190円で計算)
施術の基本料金
初診(Initial Consultation):£60~150(¥11,400~28,500)
2回目以降:£45~150(¥8,550~28,500)
スポーツマッサージ
30分:£30~60(¥5,700~11,400)
60分:£60~80(¥11,400~15,200)
鍼灸
1回:£50~100(¥9,500~19,000)
施術はマンツーマンで1時間程度行われることが一般的です。そのため、日本の接骨院や整骨院のように複数の患者を同時にローテーションで診ることはほとんどありません。
高額な治療費と保険の利用
有名な治療家や元プレミアリーグ所属のトレーナーが施術を行う場合、上記の金額よりもさらに高額になります。
個人でプライベート保険に加入している人は、保険を利用して施術費をカバーできますが、この金額で頻繁に通うのは全員にとって現実的ではないのが現状です。
いかがでしたでしょうか。
イギリスに住んでみて、日本の医療システムの素晴らしさを改めて実感しました。イギリスでは、お金がないと接骨院や整骨院に通うことが難しく、また、レントゲンなどの画像診断も緊急性が低いと何週間も待たされることが一般的です。日本にいたときは当たり前だと思っていましたが、すぐに病院を受診でき、画像診断までスムーズに受けられる環境がどれほど恵まれていたのか、イギリスに来て初めて気づきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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