「掏耳朵」 其の1
台湾文学と言うと、呉明益がまず思い浮かぶ。「歩道橋の魔術師」は、文庫本化されているし、高校の国語教科書として採用された明治書院の明治書院『精選 文学国語』にも収録されている。もはや魯迅に並ぶ中華圏文学者と言ってもさしつかえないように思う。
しかし、今回読んでいこうと思うのは、そこを外し、袁瓊瓊という1950年生まれの女性作家。微型小説を手掛けており、一般的に、その短さ故にかえって、奇を衒った展開と肚落ちする結末で構成されることが多いのだが、彼女の作品は、宙に浮いたような結末や日常に潜むエロチシズムに特色がある。今回読もうとする「掏耳朵(A Lover's Ear, 恋人の耳)」は、双方を兼ね備えており、それが故、教室での講読には向かない作品なので、敢えてここで取り上げてみる次第。
日本語訳が紹介されているのは、文春文庫の次の本で、英語を通じての重訳になる。コルタサル、川端康成、コレット、ボルヘス、ガルシア=マルケス、カルヴィーノなど錚々たる面々と並んでの収載である。全部で60もの短編が収められており、ハンドバックに耳かきといっしょに携帯するのが吉な一冊。(残念ながら、未電子化なのです。)
英訳がペンギン・ブックスの「女性によるエロい話」の選集に収められている。まず表紙からしてエロチックであり、電車の中などで読むのには勇気がいる。その昔、電子ブックの普及に、エッチな小説 "Fifty Shades of Grey"(2011) が貢献したという話を思い出す。(もうそれから13年、遠い目…)ベンギン・ブックスのほうは、ぜひkindle板でどうぞ。
このように2つの異なったテーマで集められた選集にカブっているのが、この作品の特異性とも言えるでしょう。では、次回からそのモヤ・エロ感を原文で堪能する旅に出かけたいと思います。不定期に原文、注音符号、拙訳を上げながら、中国語の初心者である私が学んだこと、疑問点なことをコメントしていきたいと思います。
残念なのは、この作品の朗読音源が見つからないことなのであります。