☆どんな時でもあなたが「すごい」と言ってくれたから
月に一回通院に行く。
そこにはいつもと変わらない笑顔。
「さらみくん、元気かい?(^^)」
「うん、まぁ一応」
20年近く変わらない応答。
彼女が看護学生の時、僕はいつも通り入院していた。
その時の記憶はほとんどないんだけど、5歳ぐらいの調子乗ってる最上級の時だったと思う。
点滴の気泡を取る操作を教えていたらしい。
小生意気な様子が眼に浮かぶようだ。
そこから20年以上。
病院に行けばその人がいる。
診察とは別に数分話す時間があった。
伝票が戻ってくる間の数分間。
学校であったこと、家族と喧嘩したこと、好きな子の話、楽しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、たくさん話した。
「さらみくん、すごいね」
何を話しても頷きながら、僕を賞賛してくれた。
絶対否定しなかった。
アドバイスをくれたこともあった。
僕の中で通院は、その人と話すことが目的になっていた。
一時期、その人が別の病院へ移った。
時同じく、僕も偶然にもその病院へ通うことになった。
そこは、前の病院よりも更に専門的な高度な治療をする病院。
まあそこへ行くぐらい僕の体は悪くなっていたのだけど。
「なんでこっちきたの?」
外来が終わって、職員が帰り始める時間帯。
偶然廊下で会ったので、素朴に聞いた。
「さらみくんみてたらね、私ももっと頑張らないとなって思ったからだよ」って。
それを聞いた時、身体中の毛がザワザワってなって、鼻の奥が痛くなって、涙がつたった。
いや、あなたはもう十分すごいよ。
どんな時でもいつも笑顔だし、治療でやさぐれてて手がつけられなかった時も、ずっとそばにいてくれた。
他の看護師さんたちはそこまでしなかった。
聞き分けのない面倒くさいガキンチョ。
正直、話を盛ったことも一度や二度じゃない。
優しさに甘えたこともたくさんある。
僕はずるくて、弱くて、調子ばかりいいどうしようもない奴。
あなたに「すごい」って言ってもらえるような人間なんかじゃないんだ。
堰を切ったように、夕方の廊下で泣きじゃくりながらまくし立てた。
言いながら「こんなこと言いたいんじゃない…嫌われちゃう…やだ…」と思いながら、言葉が溢れてきた。
その人は僕の懺悔を時折頷いて、黙って聴いてくれた。
一通り言い終わると、
「さらみくんはやっぱりすごいよ」
って。
「自分の想いを言葉にするのって、私すごく苦手でね。いつも自分のことを楽しそうに話すさらみくんが羨ましかったんだ。
たくさんの病気の子たちを見てるとね、亡くなる子たちもいる。もっともっと生きたかったと思う。
その中で、さらみくんは生きてくれてる。
私に話してくれる。
病気で不便で不自由なことたくさんあるだろうけど、自分で学んで、たのしんで生きてくれてる。
すごいなっていつも思うんだ。
そんなさらみくんを見て、私にできることをもっと増やしたくて、勉強したくてここにいるんだよ」
聞きながら、僕はまた泣いていた。
「僕は…すごい人なんかじゃない…」
自分を否定し続けてる自分がものすごく嫌いだ。
自分をここまで認めてくれる人がいるのに、自分を認められない自分が大嫌いだった。
多くの大人は「病気だから無理するな」「治ってからやればいい」か、逆に「病気なんだから他の人よりも頑張らないと」「体がダメな分、頭を鍛えろ」とかだった。
でもその人だけは、僕を認めてくれてた。
ずっとずっと昔から、今の今まで。
「いつもありがとう」なんて、恥ずかしくて言えない。
だって言ったらあなたはまた言うでしょ。
「さらみくんはすごいね」って。
だから、ここで密かに言うね。
「いつもありがとう。また次回会えるのを楽しみにしてるね」