ノッティングヒルの変人【イギリス・ロンドン篇】#スローバック紀行
何にでも「初めて」はあります。
私にも「初めての一人旅」がありました。一人旅の回数は「根暗の私が心の底からたのしんだバーベキュー」の回数を確実に上回っています。もうすっかり慣れたつもりです。それでも初めての一人旅の経験は鮮明に覚えています。ー忘れられない面影と共に。
今日は初めての一人旅をしたイギリス・ロンドンで出会った人とのエピソードをスローバック(throw back/振り返り)してみます。
旅で犯罪に遭いやすいタイミング
旅で犯罪に遭いやすいタイミングはいつだと思いますか?情報源は忘れてしまったのですが、「入国後の空港から市内に移動するタイミング」と聞いたことがあります。
それまで何度か海外に行ったことはありましたが、一人だとより警戒心が高まるもの。この旅行の前にはヒースロー空港から宿泊先にたどり着くまでのルートを何度も頭の中でシミュレーションしました。
市街地へは電車で向かうことに。「地球の歩き方」で交通機関の情報を入念に調べ、何度も現金を取り出さなくて良いように「オイスターカード」を購入することにしました。suicaやpasmoのような交通系ICカードです。当時は日本で交通系ICカードが普及し始めた頃で、私はこのときに初めてICカードを手にし、物珍しい気持ちでお財布にしまいました。改札機でパッとタッチし、電車へ。ここまでは順調です。
まずはノッティング・ヒルへ
見るものすべてが美しい。建物も素敵だし、街ゆく人のファッションも素敵。通勤中の男性たちが、アイロンがピシッと当たったシャツに渋い色のベストを合わせているのを見て、うっとりしました。英国紳士やん。私はあのイギリスに来たのだ、と。
ホテルにチェックインし、まずはホテルから数駅の距離にあるノッティングヒルへ。私の大好きな映画『ノッティングヒルの恋人』の縁の地です。到着すると根暗のバイブスは最高潮に。エルヴィス・コステロが歌う主題歌「She」が頭の中で流れていました。
目的地は映画のロケ地になった本屋さん。ただ一向に見つからない。そして喉が渇いてきました。一旦、休憩をしようかとカフェを覗くも、どのお店も薄暗く、初心者には入りづらい。コメダ珈琲的な店はないんか。ドトールでもいい。のどの渇きが限界を迎えそうなところで「こんにちは」と日本語で声をかけられました。声の主は日本旅行から帰って間もないというキプロス共和国からの旅行者の男性。「道に迷っているの?」と尋ねられ、素直に例の本屋さんを探していることを伝えると、すでに閉業していることを教えてくれました。
なんだって・・・!
長時間のフライトの疲れが、ドッと肩にのしかかってきました。ついでに喉も乾いている。「ちょうどこれからカフェに行くんだけど、いっしょにどう?」という誘いに軽率に乗りました。
お茶を飲みながらお互いの話をし、これからどこに行くつもりなのかという話に。見たいスポットをいくつか話すと、連れて行ってあげる、と。初めての旅で警戒心は強かったものの、散々迷ったあとだったため道順を調べなくてよくなるという打算が競り勝ち、そのままガイドをお願いすることにしました。
新聞の見出しが頭をよぎった
イギリスをしょっちゅう訪れている彼は、説明を加えながらガイドをしてくれました。無料ガイドを手に入れ、観光は快適な時間に。ただ、めちゃくちゃ気になっていたいこと。それは、手を握り、肩を触ってくることです。
おばさんになったいま振り返れば、腰には手を回されなかったため、彼なりにラインは守っているつもりだったのかも。ただ、若き日の自分には違和感がありました。意を決して「日本では他人に触らない。触る人間は下心がある人間だ」と話すと、電話ボックスに連れていかれました。ボックス内にビッシリと風俗のチラシが貼ってあるのを見せられ「下心があるなら電話一本で済む。こんなに会話する必要もない。わかる?」と言われました。
いや、全然わからん。わからんが、お前がそう言うなら、お前にとってはそうなんだろうな。だが、触ってくれるな。
そう思い、思ったままを伝えると、わかったけど手だけは繋ぎたいと言われ、譲歩しました。
そこから数時間、いろいろな話をしました。仕事のこと、家族のこと、休みの日の過ごし方。会話は弾んでいた記憶があります。
私が行きたいとリクエストしたハイド・パークへ向かう頃にはすっかり日が落ちていました。公園のそばの通りを歩いていると、「あの建物は君好みだね」と豪邸らしき建物を指さしました。うん、たしかに好み。「すごいね、わかるんや」と微笑みかけたところ、突然後ろから抱き着かれました。
ひえええええええええええええええええええええええええええ
彼は「ロマンチックだろう?」と言わんばかり、耳元で甘いことばをささやきますが、私はあることに気付きました。自分の臀部に男性の固いものがあたっている。そのときに思いました。自分の臀部に男性の固いものがあたっている、と。
セクシー大臣のセクシー構文を披露したいわけではなく、一瞬、思考が停止したのです。
一拍を置いて、頭がやっとフルスピードで回り、脳裏に新聞の見出しが浮かびました。「邦人女性 ロンドンの公園で刺殺」。海外旅行中で危ない目に遭うと「邦人女性」というワードが浮かぶのは私だけでしょうか。
頭が働くと同時に体も動いていました。ほぼ反射で走り出していました。すぐに地下鉄の看板を見つけてダッシュ。変人はというと(※以下、「変人」)、「何があったの?待って?」と言いながら追いかけて来ました。長い階段を降りて、改札機にオイスターカードを叩きつけてホームへ。変人も改札前まで追いかけて来たものの、オイスターカードを持っていなかったようで、追いつかれませんでした。
当時は恐怖体験で震えました。自分が油断したから変質者につかまった、と。
あれから10年が経ち、おばさんの視点で振り替えってみると、もしかしたら彼は変質者ではなかったのかもしれないと思ったりもします。変質者は工数をかけないし、わざわざ人が少ない夜道から、人が多い駅までは追いかけてこないでしょう。リスクやん。細かい話ですが、あたっただけで、あててはいなかったし。
どんくさい変人だったが、悪人ではなかったのかもしれません。
知らんけど。
【おさらい】旅で犯罪に遭いやすいタイミング
現地の人と話すのが悪いとは思いません。変人から逃げたあと、アルコール消毒をしたく、お口直しにパブに入ると素敵な出会いがありました。
友だちと飲んでいたおじちゃんと意気投合。翌日にも素敵なパブに連れて行ってもらい、おいしい「ロンドンプライド」を飲みながら、おじちゃんとその友だちから女王のゴシップをたくさん聞かせてもらえました。「ヒュー・グラントに会ったけど、小柄で大したことなかったよ」と言われたときには、キングスクロス駅の9と4分の3番線の壁にめりこませてやろうかと思ったけど。
一期一会、その相手がどんな人かはなかなかわからないもの。ただ、こちらは立場が弱い観光客。旅に出るときにはすぐに立ち去れる準備は忘れずに。特に初心者は退路=移動ルートを事前に調べておくことをおすすめします。
ここで『ノッティングヒルの恋人』の主題歌、「She」の歌いだしを。
防犯はしてもし過ぎることはありません。ノッティングヒルで出会った彼は悪人ではなく、距離の詰め方がヤバいだけの変人だったのかもしれない。でも旅に出る前は、いつも彼の面影を思い出しながら、空港からホテルまでの交通手段を念入りに調べることにしています。
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