カウンターのお茶にしか救えない孤独がある。
卵でとじた物ならたいがい好き。
オムライス、
天津飯(飲みたい)、
親子丼。
ふんわり柔らかくて作為ない黄色が乗った丼が目の前に出されると、ああ僕は今常識の範囲内でなかなかウマく生活出来てるんだなと安心する。
奇抜でも豪華でもないけど、五臓六腑にきちんと収まり、慎ましくも満たされた食事。
カウンターの隅に置かれたピッチャーを掴み空になった湯呑みに暖かいお茶を注ぎ口に運ぶ。
この一連の流れでその日起きた嫌な事に「まぁしゃあないか」とスタンプ押せる日本人って、僕を始めとしてどれくらい居るんだろう。
ばんばん人を救ってると思う。
カウンターにあるピッチャーの中のお茶って。
カツ丼久しぶりに食べたけど、周りを気にせず一言も喋らずに黙ってただただ食べるのってなんであんなに気持ちいの?
丼が俺で、俺が丼で、みたいな。排他的でありながらその先で全てと融合してるっていうか。丼を媒介にして。
没頭食は日常の中の真空地帯だよなあ。
ありがたい。
もう一度ピッチャーからお茶を注ぎゆっくり口に入れる。
一人で来て一人で食べてる人達の中で、遠慮なく思いっきり一人でいられる開放感。連帯感。
今日は君が実家に帰ってるから、
僕は今晩一人きり。
晩ごはんどうするの?って朝君に聞かれて、ここの定食屋に行くという事は決めてたのに、なんかラーメンとか適当にってはぐらかして答えてしまった。
しらばっくれたくてしょうがなかった。
君に行き先を知られると、
知られてるだけなのに
どうしても徹底的に一人になり切れない。
一人になりたい僕を、僕は大切にし過ぎてしまうところがある。
何がせっかくなのか分かんないけどせっかくだからコンビニ寄ってバドワイザー買って帰ろう。バドワイザー飲むんならフランクフルトも買わなきゃ。漫画とか久しぶりに買っちゃおうかな。今週の表紙誰だろう。ああなんで一人っきりの部屋に帰る時に立ち寄る夜のコンビニってこんなに遠足の買い出しっぽいの。大人最高。
「私がいない間に他の子連れ込んだら速攻別れるからね」って冗談まじりに言って出て行った君のいない取り残された玄関で、"他の子"というフレーズにだいぶ少しジリジリと興奮した僕。
抑え付けるつもりが返って火種を与えてしまっているどうしようもない君を、今すぐ玄関開けて手を引っ張ってベッドに連れ込みたくなった僕。
自分は最近、一体何が起爆剤になってるのかよく分からなくなる。
一言でいうと女性に対するポテンシャルが、自分で持て余すほど高いのだ。高いというか、リノベーションが効きすぎるというか。
これ人生の何かにいずれ使えるのかな、使えないどころか足引っ張りそうだな。
ああコンビニ楽しかったな。モンブランどら焼きも買っちゃった。
しかも今日オードリーのラジオあるじゃん。久しぶりのリアルタイムよ。
オードリーのやつ、なんか君の前でどんな顔して聴いたらいいのか、どこで笑ってどこで笑っちゃいけないとか、とにかく思うさま聴けないから、今晩のやつ、嬉しい。
一晩君が帰ってこないと分かりきった部屋でしか癒せない疲れが、僕の中にある。常に。
コンビニの袋がカサカサ鳴り響く。
この浮かれた中身が僕を今夜分厚い殻に閉じ込めて誤魔化してくれる。
ある日突然、半ば暴力的に母親のお腹から出された日から始まった理不尽な居心地の悪さを、良く出来たウソで癒して見事に錯覚させて強力に誤魔化してくれる。
カウンターのお茶の距離感って深夜ラジオの距離感だよなあ、あれは。
労り合ってるんだよなあ、お互い知らん顔して。
深夜ラジオって一人の部屋でもヘッドホンで聴きたくなるのなんでなんだろ。
親子丼最初に考えた人の心理状況ってどうなってたの?
なんて街灯の下、君の居ない家に気楽な足取りでウキウキ帰れるのはでも、この一人きりの夜は明日には終わりが来ると分かっていて、しょせん安全が保証された中での潰しの効く孤独だからという事に、他ならないけど。
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