壊れる前に
まつ毛をビューラーでかける瞬間の君を見るのが好きだよ。
小さな金具でまつ毛を挟みギョロリと目玉を剥き出しにしながら鏡を見下ろしてる君を気付かれないように覗く時、その瞬間だけは僕が君を支配出来てる気になれるから。
お菓子の袋破る時、いつも切り込み入れすぎて中身が溢れ出て、結局お皿に移して食べる結末を何度も何度も繰り返してしまう君の衝動性を、叶うならずっと守り抜いてみたい。
料理を作り始めると怒りっぽくなるね。
僕が洗い物始める頃にはギャングみたいに上機嫌に戻るけど。
クレヨンしんちゃんの映画ってまだ上映してるの?って、蛇口の水流ぶち破って尋ねてくる君のたくましい声帯に、早く潜って沈みたい。
まだしんちゃんやってるんだったら一緒観に行こうよって洗い物終わってクタクタになった僕にソファに座ってる君が話しかける。
そのカーディガン、また今年も使うんだね。
オレンジ色でところどころに紫の不思議な模様が描かれたカーディガンを、聞いた事もない駅にある古着屋で買って来たと言って嬉しそうに見せてくれた時には少し驚いたけど、今では君にとてもよく似合ってると思うよ。
君に似合ってない物を着てる君はとても君らしくて、だからとても似合ってるよ、その変なカーディガン。
しんちゃんって夏に公開してたと思うから流石にやってないと思うよって僕が言い終わる前に、とりあえず明日仕事終わったら映画館で待ち合わせしようって食い気味で言ってのける君の神経とは一生分かり合えない気がするし、やっぱり最後まで分かり合えなかったねって、笑って死ねたら、本当に贅沢。
まあいいや観たい映画あったし
どうせしんちゃん終わってるから
君には残念だったねとなぐさめつつ
ドサクサに紛れて
観たかったやつ、
一緒に観よう。
それでいこう。
何度も何度も同じ結末を繰り返して毎回毎回エンドロールの途中で席を立ってthe endの画面から逃げ切る主人公がストーリーのインド映画を、クレヨンしんちゃん目的で映画館に来た君を丸め込んで二人で一緒に観るなんて、生きるのって、なんてキワどくて壮大なんだろう。
今日が壊れる前に、君に伝えたいことがある。
絶対に見逃したくない映画は公開日から一週間以内に意地でも観に行かないとほぼ見逃してしまうくらい世の中って本当、狂ってるほど使い倒すの早いよ。
そうやって毎回体当たりでいちかばちか殴り込むんじゃなくて、ネットでサクッと調べて行けば、ベタなB級インド映画に巻き込まれなくても済むんだけどね。
あとね、
寄せてても上げてても小ざかしくて愛おしいけど、外してる時が一番可愛い。
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