【試訳】アイルランドの「猫の王」物語群
ビディ・ガスコイン
ある晩遅く、ファヒーの沼地に住むトム・マッガンという男が、エアーコートから家に帰る道で黒猫に呼び止められました。猫はいいました、「トム、今夜家に帰ったらナンシー・ヘーゼルに伝えてください。ビディ・ガスコインが死にました」。男はそれが猫の名前だとわかりませんでした。家に帰ってしばらくして、男はこの奇妙な出来事を妻に話し始めました。話が終わるや、火の側に座っていた猫が立ち上がり「ああ間に合わない、彼女は死んだ」といいました。この言葉を残して猫は戸口へ突進し、二度と姿を見ませんでした。
ホッパー
僕の祖母がそのまた祖母から聞いた、ある男が夜遅くぶらぶら帰る途中の話。
とある茂みの側を通ったとき、彼は猫の葬列に出会い、そのうちの一匹が「キトーに伝えてくれ、ホッパーが死んだ」といい、彼は家に帰って妻にこの奇妙な出来事を話し、猫が何と言ったかを話したとき、火の側で静かにまばたきしていた彼の猫が飛び上がって「おお、私の一人息子が」と叫び、戸口に走り寄り、飛び出して二度とそれから姿を見ませんでした。
ポール・トゥアン
ある夕べ、一人の男がドネラヴィルの村から帰る途中、ブロウとニュータウンの間で三匹の猫に会い、森の道でも一群の猫に会いました。森の入口で五匹の猫に会い、彼は怖くなりましたが猫たちは彼にちっとも怖がることはないといい、これから通夜に行くところだといい、家に帰ったらポール・トゥグにポール・トゥアンが死んだと伝えてくれといいました。五匹の猫は、もし彼が伝えなければとても悪いことが彼に起こるといいました。男は帰り道ずっと自分に向かって猫の言葉を繰り返し、台所に入った時もまだ繰り返し、そのとき台所は真っ暗で何も見えなかったのですが、ポール・トゥグに伝えなければ云々といっていました。彼はかまどの方で物音をきき、おもむろに見たのは彼の猫が扉についた窓に乗っているところで、猫は彼を見てそれは自分の曾祖母だといい、出てゆき、男はその猫を一週間というもの見ませんでした。
ケイト・ホーガン
ある晩遅く出かけた男がいた。道を歩いていると彼は奇妙な大きな音を聞きいた。彼はあたりを見回し、とても怖くなった。次の瞬間その音が彼を追い越し、連れていた犬はその場を動かなくなった。彼はその音の正体を見ようとし、それが一群の猫だと知った。一匹の猫が言った、「人間、人間、帰ったらトム・ガマローに伝えてくれ、ケイト・ホーガンが死んだ」。家に帰り、妻にこの話をしたところ、飼っている黒猫が椅子の下から飛び出して、「タナム・ウン・ダウブ・アン・エ・マーハ・モ・ラノフィ・ゴー・レイル・ター・マール」と叫び、喚きながら戸口から走り出て、二度と戻らなかった。
ポル・ローヴァー
昔、若い男が妻と暮らしていました。彼は毎晩、仕事の帰りに古い砦の側を通らねばなりませんでした。ある霧の晩、大きな猫が砦から彼の後をついてきました。一ヶ月ほど経った晩、砦の側を通ったとき、彼はたくさんの男の話す声を聞き、耳をかたむけてみると、聞こえてきたのは、「人間、おお人間[マン・オー、マン・オー]、さすらいのビル・ローヴァーに伝えたし、さすらいのポル・ローヴァーは死せり」。彼は怖くなり走って帰りました。家に着いて、これまでで一番奇妙な話を聞いたと妻に言いました。彼はあったことを妻に話し、大きな猫がそれを聞いていました。話し終わると、猫は「ミャウオー、ミャウオー、我が子らの母親よ」と言いながら戸口に向かい、二度と姿を見ませんでした。
男と黒猫
ある日、一人の男が沼地で泥炭を切り出していたところ、小さな黒い猫が近づいてくるのを見て、その猫は彼の友達が死んだことを家に伝えるようにといいました。男ができるだけ早く走って家に帰ると、友達は死んでいました。
その夜、一人の男が通夜にきて、猫と遊び、猫は助けられ、その男は家の男に猫を外に出すようにいい、二度と姿を見せませんでした。
ポール・ヘーゼル
バンラッティ近くのファーガスの漁師は奇妙な見た目の猫が一匹、壁から自分をうかがっているのに気づき、「マナオウ、マナオウ」とその猫はいった。「帰ったらギジー・ガゼルに伝えておくれ、ポール・ヘーゼルが死んだとな」。
その晩、漁師は暖炉の側に座って、妻に話した。家の雌猫が暖炉の上に座り、うとうとしていた。「ポール・ヘーゼルが死んだ」という言葉を聞くや、猫は鋭い叫び声を発し、夜の中に消えていった。彼女は二度と姿を見せなかった。
ケイト・ストラングルス
遠い昔、この老夫婦は田舎の小さな家に暮らしていました。彼らが持っているものはといえば、モル・ローという名の一匹の猫だけでした。
ある晩、夫が家に帰る途中、手足の先に鋭い爪を持つ猫の大群を見ました。先頭の猫が立ち止まって口を開きました。「モル・ローにケイト・ストラングルスが死んだと伝えてくれ」と彼は言ったのです。不思議に思いつつも老人は帰路を急ぐのですが、家の入口で自分の猫が火の前に座っているのを見たのです。彼は猫に近づきました。「ケイト・ストラングルスが死んだよ」彼は言いました。この、静かに語られた言葉の効き目が見え始めました。モル・ローは煙突を昇って消え、二度と姿を現すことはありませんでした。
ポール・ウィギンズ
昔むかし、出かけた先でいつも夜遅くまでねばっている男がいたんだと。ある晩、彼が家路をたどっていたおおよそ11時くらいのこと。道を歩いていると、原っぱが猫でいっぱいなのを見たんだと。でかい灰色の猫が道に出てきていうことには、「帰ったらポール・ルアドにいってくれ、ポール・ウィギンズが死んだって」。男は家に帰り、見たこと聞いたことを話したと。猫が火の側に寝そべっていたんだと。男の話を聞くと猫は跳ね起き、「葬式に行ってこなきゃ」といいながら飛び出していったんだとさ。