「チ・カ・ホとまちの文化芸術活動」(2)
前回の、(1)チ・カ・ホとの最初の関わりはこちらからご覧ください。
(2)チ・カ・ホでしかできない体験をつくる
酒井:では、ここからは、チ・カ・ホを舞台にする文化芸術活動の話や、チ・カ・ホを活かすということなど、テーマを区切って話していきたいと思います。
まずは、いきなり難しい内容かもしれませんが、チカホにおけるパブリックアートについて考える上で、PARC(Public Art Research Center[PARC](パーク))について教えてください。最初は、いくちゃんから、まち会社がPARCを企画することになった経緯を教えていただけますか。
Public Art Research Center1[PARC1:Biotope](2013年3月開催)
今村:PARCは2013年3月にスタートしました。当時、白鳥さんにやってみたいことを(社内で)企画提案して実現しました。多分、その頃は貸し出しのシステムが少しずつ整ってきて、じゃあ次は自分たちでアクションを起こすならどういうことをやれるか、やりたいことがあったら会社に提案できる感じだった。
で、「チ・カ・ホは使うのが難しい」とか言われるし、自分がモヤモヤしていたから、実際に自分がアーティストや企画者と一緒にプロジェクトを組んだらどういう問題が起こり、またそれをどう私たち(まち会社)は回答したり次の課題が見えるのかなということが気になって、公共空間の活用をテーマにアートプロジェクトができないか、高橋さんに相談しました。
酒井:なるほど。チ・カ・ホの使い方が難しいからこそ、その場所自体を考えるっていうことをPARCっていうネーミングに込めたということですね。PARCは実証実験的な側面も持って、新しい可能性みたいなものを探していたということ?
今村:そうそう。公共空間ってそれこそ色んな人が関わるし、だからルールがあるんですよね。
例えば、公園は火気厳禁だし、できないことって必ずあるでしょ?じゃあ、それを破るのではなく、それがあるから何ができるかとか、ルールがあるけどここならではの魅力を見つけるとか、そういうようにマインドを変えていかないと表現活動の場所は限られていくし、ルールを無視してやるのはただの自己表現的になってしまう。その前提を共有してもらえる人たちと一緒に考えることで、何か面白いことができないかなと思いました。
酒井:ありがとうございます。では、次はキーボーに、ちょっと重たいかもしれないけどPARCの中でパブリックアートとして目指したことを教えてください。一番難しく感じたことやその中でアートプロジェクトとしてどういうものをいつも作るべきだと考えているのか。そして、最終的にはチ・カ・ホにおけるパブリックアート像を語ってもらえれば嬉しいです。ここ、大事なところです!
高橋:あれ?!すごい荷物多いな(笑)。今村さんから一緒に考えないかと相談をいただいてまず考えたのが、チ・カ・ホのグレーの床(の色)が強すぎるから、あそこを一変するような、一瞬で何か変えるものはないかなぁと思いました。
広場って公園みたいなのだから、公園みたいな感じにできるといいなと思い、本物の芝生は無理だけど、人工芝を敷いて一つの世界観をつくりだせるようにという考えから、企画を立てていきました。
高橋:作品を展示する以外に、チ・カ・ホのいつもの使われ方である「見る」「買う」だけではない体験を作り出せればねとなり、ワークショップがいいのではないかと思ったんですね。500m美術館の企画を担当させていただいていて、作品を見てもらうことはできているけれど、体験してもらうということは500m美術館ではできてなかったので、チ・カ・ホではワークショップスタジオみたいにして、木材を用意するから材料費を払ってくれたら自分でのこぎり持って椅子とかの作り方を教えるイスづくりのワークショプを考えた。
で、椅子だけではなく、公園にはベンチがあるから、みんながつくったイスを横に並べてベンチを作ろうと。それが結構当たったというか、人気になって予約が殺到したんです。参加してくれた人が予想に反しておばあちゃんとかが多くて、椅子は椅子なんだけれど玄関に腰掛けて靴を履く台とか、まぁ、ぎりぎりイスかな!?みたいなのや、子どものイスをお母さんがつくるとか。あんまりイメージできていなかったんだけれど、一緒にイスを作って、イスを持って帰るひともでてきて。
酒井:え?持って帰るの?!
高橋:そう、自分で作った椅子を肩に担いでチ・カ・ホから持って帰るお母さんとかいて、めっちゃかっこいいシーンをチ・カ・ホに作れたなって思った。チ・カ・ホに見るとか買うだけじゃない「作る」っていうことができたということがある。
酒井:へぇ〜!
高橋:何回か重ねていくと、要望がどんどん高まっていって、エアコンの室外機のカバーを作って欲しいとか(笑)、さらにその上に物を置きたいんだとか…(笑)。
皆:はははははは(笑)。
高橋:椅子はほぼ関係なくて(笑)。じゃあ家に帰ってサイズを測ってきますと言って次の日来て作る人もいて、もう工務店みたいになってたけれど、のこぎりや釘打ちなどは自分で作ってやってくださいねっていうこと含めて楽しんでいただけたと思います。
イスづくりワークショップの様子(PARC1)
今村:(私が知る限り)超オープンな工房みたいな、そういう場所って世の中にほとんどないんじゃないかな。
酒井:ホームセンターはそんなに親切じゃないでしょ?
今村:ホームセンターは逆に、頼めば機械で切ってくれたりする。
高橋:だから、本当にでっかいベンチを1人で作る人がいたりして。もう、イスじゃないの(笑)。
酒井:でも、公共空間だから、音がちょっと出ることとか、粉塵出るとか、配慮した点はあったの?
今村:のこぎりは手のこに限定したので、そこまで粉塵は出なかったし、人工芝にうまく粉塵が収納された(笑)。音がでるものはインパクトドライバーぐらいで、日常でもインパクトドライバーを使った施工はやっているので、大丈夫だろうということで使用していました。
酒井:ほんと、うまくマッチした。チ・カ・ホのギリギリの制約をうまくかわしたって感じだね。
今村:北1条イベントスペースは奥行きが3mあって人が溜まれるので、そこはすごい魅力なんです。
酒井:それは、本当におもしろい使い方の可能性だったね。でも作家さんによっては、使いにくいじゃないかっていうクレームはなかった?
高橋:それはもちろんあった。まず、壁にテープも貼れない。両面やマスキングテープも、画鋲もだめで、展示物は吊るか別のものを工夫していかないといけないんです。
今村:なので、最初の段階でアーティストにできないことを伝えたり、作家選定もそういうことができそうな方を選んでオファーしています。
酒井:PARCの「リサーチする」っていう側面について聞いてみたいな。
高橋:PARCは、人工芝を敷き、ベンチを置き、公園のような空間をつくるということで、名前を「パーク」って呼んでいるんですけれど、本来の公園は「PARK=パーク」なのですが、「PARC」というように末尾を変えて、Public Art Research Centerという名前にしています。この企画を考えている時に「彫刻公害」という問題が出てきていて、バブル時代に色々な銅像やモニュメントをまちにいっぱい作ったのですが、20〜30年経つと風化していったり、ちゃんと保守管理されていなかったり、逆に管理するのに維持費でお金がかかるとかで問題になったんですよ。
そこで、チ・カ・ホ に1〜2週間なり短期間だけ出現するアートを、新しいパブリックアートと呼べないだろうか?という、企画側からの提案でもありました。ずっとモニュメントとして残り続けるものへの問題意識というか、「一瞬だけ現れるパブリックアートの可能性」を、チ・カ・ホから打ち出すことはできないかなって考えていました。
酒井:ちょっと前後しちゃってるかもしれないけれどすごいいい話っていうか、一般的にビル建てるときに必ず言われるような、この角にアートワークしてください、予算の何%使ってくださいっていう世界とは違う、すごい限定的な期間かもしれないけれど、そう立ち上がるものもパブリックアートだということだよね。プロジェクト型なのも含めて、もう少し定義を拡大していってもいいんじゃないかっていうチャレンジともとれるね。
★次回は、コロナ禍でのチ・カ・ホでの活動についてお届けします。
チ・カ・ホ開通10周年企画座談会
「チ・カ・ホとまちの文化芸術活動」
会 場|札幌駅前通まちづくり株式会社 MEETING ROOM1
登壇者|
高橋喜代史 / キーボー(美術家/一般社団法人PROJECTAディレクター)
今村育子 / いくちゃん(札幌駅前通まちづくり株式会社/美術家)
小西耕平 / 耕平くん(札幌駅前通まちづくり株式会社/ジャグラー・コーヘイ)
モデレーター|酒井秀治(株式会社SS計画代表取締役/まちづくりプランナー)
撮影|Doppietta photo
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