「カメラ沼の深淵」 Introduction ~ Canon VT
『長いあいだ深淵をのぞいていると、深淵の方もお前をのぞき込む。』
ニーチェ 「善悪の彼岸」より
ラジオを聴いていると、パーソナリティの方が祖父の遺品の中から70年くらい前のフィルムカメラ Canon IVSb を見つけて修理したので使ってみたいと話していました。
露出を測ってシャッタースピード/絞りを調整して、レンジファインダーでピント合わせをして1枚撮るのに10分はかかりそうと楽しそうでした。
最近、フィルムカメラが人気です。”一枚一枚ていねいに撮る”というのが人気の理由なようです。フィルムカメラからデジカメに移行した私は、なぜかもやもやしました。フィルムカメラ時代、本当に一枚一枚ていねいに撮っていたのだろうか?
EDPが完了するまで撮影結果を確認できないため、必要以上に撮っていなかったか。特に記念写真や結婚式の写真は、目をつぶっていないか、露出・ピントは大丈夫か、不安がいっぱいでした。AEブラケットと言う設定した枚数、指定した露出補正を行い自動で撮ってくれる機能を搭載したカメラさえありました。その上、フィルムもプリント代も今から考えるとべらぼうに安かったです。
デジカメになって撮った直後撮影状態を確認できるので、むしろ撮影枚数が減ったのではないか?と思うくらいです。
もう使わなくなって防湿庫に眠るフィルムカメラの思い出や使い勝手を紹介していきたいと思います。これからフィルム写真をはじめられる方の参考になればうれしいです。
残念ながら Canon IVSb は持っていないので、第1回は Canon IVSb の後継機になるCanon VT型について書きます。
Canon VT型は、コピーライカを脱却してキャノンらしさを加えた革新的な1台です。トリガ巻き上げのため、やや背が高いです。巻き戻しノブが格納できるので軍艦部がフラットになり、すっきりしたな外観がお気に入りです。
まず、フィルム装填が楽です。裏蓋を開けてフィルムを装填できます。
バルナックライカを購入して苦労するのがフィルム装填。私も初めてバルナックライカを使った時、ドイツ人はどうしてこんな装填方法を思いついたんだろうと思いました。慣れれば何とかなるのですが、フィルム初心者にとっては『ハードル』というより『壁』のような気がします。
次に、バルナックライカは50mmレンズ以外を使用するには外付けファインダーが必要となります。V型には、50mm/35mm/RF のファインダー倍率変更機能があります。RFでおおよそ90mmレンズの視野になります。
VT型だけの特徴になりますが、ライカビットライクのトリガ巻き上げ機構で、素早くフィルムを巻き上げられます。
フィルム装填を簡単に行いたい人、M39マウントの35/50/90mmレンズをいろいろ使ってみたい人には、V型はお勧めです。
ただし、フィルムの巻き戻しがバルナックライカと同じなのはちょっと残念です。
巻き戻しは、巻き戻しクランクがついたVI型以降が楽です。キャノンでは、VI型がレンジファインダーカメラの最高峰だと思っています。私がVT型を手に入れた20年以上前でもVI型は高かったです。
IV型、V型のように自動露出調整(AE)機能がついていないレンジファインダーカメラの使い方です。
まず、露出ですがフィルムの箱に表示されているので参考にしましょう。
ISO100のフィルムを入れた場合 シャッタースピード1/250で固定
快晴時の海・山 絞り:f16 晴れ 絞り:f8 曇り・日陰:絞り:f4
ISO400のフィルムを入れた場合 シャッタースピード1/500で固定
快晴時の海・山 絞り:f32 晴れ 絞り:f16 曇り・日陰:絞り:f8
なのですが、絞り:f32 がないレンズも多いので
快晴時の海・山 シャッタースピード1/500 絞り:f16
ISO400なら
夜の街頭 シャッタースピード1/30 絞り:f2~f4
で何とか明るい夜景も撮れます。ネガフィルムは、露出のラチチュードが広いの多少アバウトでも大丈夫です。露出オーバー方向は何とかなるので、アンダー気味よりはオーバー気味の露出を心がけましょう。
次にピント合わせです。ブライトフレームの2重画像を一致させることも、慣れないと大変です。50mmレンズでも、絞り:8 で撮影距離を5mに合わせれば、3m~10mの範囲は被写界深度の範囲内でピントが合っているように見えます。最初は、昔のスナップ写真の撮影手法でピント合わせをスルーしてしまうのも良いかもしれません。
あまり神経質にならずにとりあえず撮ってみることをお勧めします。
カメラに慣れること、失敗した経験を活かすことが上達の早道です。