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今まで食べた一番ウマいもん

今まで食べた一番ウマいもんって何ですか?

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私は11歳の誕生日、極寒のディズニーシーで食べた餃子ドッグと答えます。

その年の春は東京ディズニーシーが開業して半年ちょっと経った頃。まだまだ日本の多くの人が、できたてのディズニーリゾートに足を運びたくてやまない時期でした。

苦労したでしょう、そんな中私の親は誕生日にディズニーシーチケットをプレゼントしてくれたのです。
私はもちろん期待に胸を膨らませました。毎日待ち遠しくて眠れないほど、眠れば夢に見るほど!

しかし当日はザーザーの雨。ディズニーシー、海辺なので風も強かった…。

風に吹かれ、雨に打たれ、人に揉まれ私はかなり疲弊していました。

そんな私と弟を風の当たらない所で待たせて、母はどこかへ行ってしまったのです。

かなり長い待ち時間だったと思います。
やがて母は湯気の立つ餃子ドッグを抱えて戻ってきてくれました。

あの時の餃子ドッグ、美味しかったなあ。

ホカホカのふわふわで、肉汁がしたたるように出てきて。全身冷えと疲労で打ちのめされた身体に、じわっと染み入るような温かい味がしました。
もう泣きだしたいぐらい感動したのを、今でも鮮明に覚えています。

しかし不思議なことに、高校生になって友達と食べた餃子ドッグは全然美味しくなかったんです。その時だけではありません。
季節を変えても、恋人と食べても、どれも初めて食べたあの時の餃子ドッグには敵いませんでした。

あの時のあの餃子ドッグだから美味しかったのだ。そう気づきました。
寒さと疲れ、期待が裏切られた悲しみ、母を待つ心細さ、母を見つけた安堵、そして混雑を耐えて母が買ってきてくれた出来立ての餃子ドッグ。
「疲れたけど美味しいね」と家族で笑いながら食べた餃子ドッグ。

もう二度と食べることは出来ない寂しさと、思い出すと心がぽっと温かくなる食事。

私はそういう食事が心から好きです。

「ああ、美味しかったなあ」と少し切なく、でも心を明るく支えてくれる私の食事の思い出は、最高の食材も輝く見栄えも敵わない。

私はこれからも大切な人と、そんな涙ぐみそうになる食事の時間を一つでも多く積み上げていきたい。
そしてそんな時間をどれほど積み上げられるかが、「食事を大切に思えるか」の鍵に思えてならないのです。

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あなたの今までで食べた一番ウマいもんって何ですか?


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