自分に時間を与えるシンプルな方法
あるとき私は『いつも時間が足りない』と感じていることに気がついた。やるべきことをする時間が十分にはないと信じ、忙しさを当たり前に受け入れている。
今日できることを明日に引きのばし、明日でもいいことを今日やろうとする。目の前にはいつもこなすべきタスクが山盛りだ。何か成し遂げてもその成果を味わい愛でる余裕はない。
遅刻してしまうかも、締切に間に合わないかもと焦っては、あともう1週間、あと1日、あと1時間あれば…と願っている。
気づけば1年も半年が過ぎてしまった。残り3ヶ月だ、あぁもう年末だ新年だ。目の前のことに忙殺されているうちに、あっという間に人生は終わりを迎えてしまうかもしれない。えも言われぬ不安を抱えるほどに、時間はますます早く過ぎ去っていく。
”常に時間がある”状態にシフトするには、どうしたらいいのだろう?
時間への恐れを手放し、”時間と仲良くなる”ことはできないだろうか?
答えを求めて、とあるタイムマネージメントのセミナーに参加した。30代半ばで複数のビジネスを成功させたという男性講師は『平均寿命から自分のライフは残り何%かを示すライフゲージ』を胸の真ん中にドーンとデザインした、独創的な黒Tシャツを身につけこう熱弁する。
「人生であと何回、あなたは満開の桜を見ることができるでしょうか?両親とは、あと何回お花見にいけますか?お正月はあと何回?
平均寿命から計算して、あなたの残り時間はあと何時間何分何秒?ほら、1分1秒もムダにできないでしょう!1秒1秒ワクワクすることをして、そうでないものは切り捨てないと!そしてマルチタスクを同時進行できるマネージメント力を身につけるべきです!」
セミナーが進むにつれて私の心は重たく沈み、息苦しくなっていく。確かに時間を大切にし有効活用するという点で、一理ある情報なのだけれど。何か自分にフィットしない。しっくりこない。このままでは視野が狭まり、考え方が偏り、バランスを失ってしまう気がする。求めていた答えのほんの一部しか見つけられていないと感じる。そもそも自分は、何を望んでるんだっけ?
もんもんとする私をよそに、一段と熱のこもった声で男性講師はこんなエピソードを語った。
皆さんまさか、未だにコンビニとかで現金払いしてないですよね?このまえ目の前のヤツがモタモタ小銭で支払ってて、ホントなんなのこいつ、電子マネーならピッで済むのに、このムダにした30秒どうしてくれんだと!俺の人生の貴重な30秒を奪いやがってと本当にイライラしたんですよ!笑
なるほど。彼は私たちが陥ってしまいがちな人生の矛盾をわかりやすく示してくれた。1秒1秒を大切にしたいと思うあまり、ワクワクするよりむしろイライラしてしまう。もし人生を”瞬間”ではなく”残り時間”として捉えるなら、確かに私たちは怯えて焦り、イライラし続けることになるだろう。
本当の意味で時間と仲良くなるには、表面的な時短術ではなく、私の時間への概念を根幹から覆すような”新しいアイディア”が必要だった。
その新たなアイディアは、ハワイでメタフィジックスの師に出会ったことで見つかる。メタフィジックス=形而上学とは、自分の意識を変えることで、外側のあらゆる出来事は変えられるということを伝える科学だ。
ハワイの師・ラナンは言った。
外側のものは全て、あなたの内側の意識の反映に過ぎない。形を超えた領域に視野を広げ、内側との繋がりを取り戻すほど、あらゆることはシンプルにうまくいくようになるのだよ。
彼は十分なお金も、愛情あふれる人間関係も、大好きな仕事も、快適で素敵な住まいも持っていて、あらゆる点で豊かだった。時間に関してもそれは例外ではなく、彼の周りにはいつも時間が悠々と流れていた。共に過ごすほどに、限られた時間の枠から解放されるような、不思議な感覚を味わった。
どうしたらもっと時間に余裕を持てるようになりますか?私の質問に彼はひと言、こう告げた。
1秒1秒を刻むことは あなたを”死”へと向かわせ
一瞬一瞬生きることは あなたを”生”へと向かわせる
聞けば、彼の中には後悔して惜しむ過去も、漠然とした不安に満ちる未来も存在しないのだという。あるのは”今この瞬間”だけ。今この瞬間100%存在すること以上に、大切なことなどないのだからと。
一瞬一瞬生きるということについて、もう少し教えてください。そう聞くとラナンはにっこりと微笑み、両手を合わせながらこう言った。
時間に対してストレスを感じているとき、私たちは今この瞬間よりも、過去や未来の方が重要だと信じている。そして外側の誰かや何かからプレッシャーをかけれているのではなく、自分で自分に無理な要求を突きつけている。
自分に時間を与える最も良い、シンプルな方法は、今この瞬間の自分に”平和”を与えることだ。あなたはもっと時間があればもっと平和になれるのに、と信じているかもしれない。けれどメタフィジックスの観点からみると真実は真逆にある。時間の問題を癒すのもまた、外側の何かを変えるのではなく、内側の意識を変えることなのだ。あなたが出会う人や体験する出来事は、あなたの発したエネルギーと合うようになっている。ぴりぴりした態度はさらなるイライラ体験を引き寄せ、リラックスした遊び心ある態度はスムーズにうまくいく経験を引き寄せるのだよ。
時間を真に理解しマスターすると、必要な分だけ時間が伸びるという、論理的に考えたら不可能な現象も起こっていく。一見、奇跡のような現象にもみえるが、メタフィジックスの観点からすればなんてことはない。時間も私たちの思考に適応するということが証明されただけなのだ。時間を伸び縮みさせるコツは、その原理を解明しようとせず、流れに身を委ねて見守り、一瞬一瞬楽しむこと。
彼の言葉は私の心にすっと届いた。どんなに時短術やマルチタスクマネージメントのスキルを身につけても、変わらないどころか忙しさに拍車がかかり悪化していた時間との関係が、あの瞬間から良好な方へと変化していったのだ。
いま私は以前より遥かに時間と仲良くなったように思う。時々焦ることもあるけれど、多くの時間を自由に心穏やかに過ごせている。目の前の景色を楽しみ、起きる出来事をじっくり味わい愛でるようになった。それでも不安を感じたときには、師のこの言葉を思い出す。
次に焦って不安になり始めたら、深呼吸して、こう唱えてみると良い。
『魂が望み、本当にするべきことのための時間は、いつも十分にある。』