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「そこに、愛はあるのか?」

「編集者になりたい」。大学生の私が、就職活動をしながら気づいたこと。それまで何となく「好きなことを仕事にしたい」と漠然と考えていた。

ずっと続けている好きなことといえば、「読書」だった。通学中の電車の中、大学の授業中、公園やカフェで一息つく時、暇さえあれば寝る間も惜しんで本を読んでいた。特に気にしていなかったが、改めて自分の本棚を見てみると、そこには一つの出版社の雑誌だらけだった。気になって調べると、会社まで30分以内で着くことがわかった。それから運命を感じてしまった私は、直感でその会社を第一志望に決めて、突っ走った。

就活の話は割愛するが、見事に(今考えても運としか思えないw)第一志望の出版社に合格。夢の出版社で働く道がひらけた。1年目は希望の編集部ではなく、営業部へ。悔しい思いもしたけど、とっても素敵な先輩方に囲まれて、素晴らしい経験をさせてもらえた。しかし、「編集者になりたい」という夢は強くなる一方。2年目になる前、勇気を持って異動願いを出した。すると、思ったよりもすんなり、編集部に異動させてもらえた。5年くらいかかってもいいと思ってた私は、今考えても奇跡だったと思う。

で、ここからが本題。そこで出会ったのが「編集長」だ。言うなれば、私の大ボス。憧れの編集長は、妄想で描いてた通り、怖そうだった(笑)。初めて会った時は「か、カッケェ…これが編集長になる人かぁ」と、ビビりながら感動したのを覚えている(笑)。

喫煙室の住人と言われるくらい、プカプカとタバコを吸う。365日仕事、私生活は!?と心配になるくらい、忙しい。そんな編集長は前職が有名なファッション雑誌ということもあり、ものすごくおしゃれだった。背が高くて、いつもおしゃれなメガネで、違う服を着ていて、目つきが悪かった(笑)。

そんな強面の編集長は見た目の通り、仕事にもめちゃくちゃ厳しかった。新人編集部員だった私は、何回トイレで泣いたかわからない…(遠い目)。今となっては、優しさとわかるけど(笑)。

で、その編集長の口癖が「そこに、愛はあるのか?」だった。

新人は、インフォメーション欄の原稿から始まる。基本のキである。初めての原稿を出した時「お前、そこに愛はあるのか?」と聞かれた。「愛…?」と、はっきり言ってその時は、仕事を覚えることで毎日が精一杯だった私は、愛とかなんとか言っている暇はなかった。

仕事に追われる日々。新しい仕事を覚える前に、とてつもない仕事量が毎日降ってくる。怒られながら歯を食いしばり、寝る間も惜しんで、一生懸命駆け抜けた。人生で初めて、立ったまま寝てしまう経験をする(笑)など、大変なこともたくさんあったけど、それよりも夢の仕事につけたことで私は心からワクワクしていた。

その後何年か経ち、少し慣れてきた私は、大きい特集を任されるようになっていた。慣れてきてはいたものの、相変わらず「編集長に原稿を渡す」というのは全く慣れていなかった(笑)。編集長が読む「編集長ボックス」というものがあり、自分の納得がいくところまで出来上がったら、そこに入れて編集長に最終的に読んでもらう。私の場合、まだまだ新米、そこで書き直しは日常茶飯事。いきなり企画が覆る時もしばしあった(悪夢だw)。

この日も校了日前、「編集長ボックス」に原稿を入れなければならない日が来た。任されていた特集は、私がずっとやりたかったもの。企画を一から考え、スタイリストさんなど色々な人にアドバイスをいただいたり、撮影もこだわってスタッフと何度も話し合ったり、自分の中でめちゃくちゃ力がこもっていた。力が入っているだけに、ビビリも100倍だった。

あまりにも震えた私は、編集長がいない隙に原稿をスッと「編集長ボックス」に入れ、逃げた(笑)。目の前で読まれるのは、もう耐えられないくらい、心底ビビっていた。用もないのに下の営業部へ行ったり、深夜のコンビニに行ってみたり…。でも、逃げてばかりはいけない。編集長と自分の原稿と責任と、自分の勇気と戦わなくてはいけない。

拳を握りしめ(本当に握ってたと思うw)、思い切って編集部へ戻った。すると、編集長は席にいなかった。「編集部ボックス」には原稿がない。ふと見ると、自分の机の上に原稿が乱雑に置いてあった。

心臓が口から出そうだった。赤字(文字の修正の文字入れる時は、赤で書く)を見ると、表紙をページに一言、書いてあった。

「なかなか面白い!」

…胸が、本当に熱くなった。多分、この熱さは一生忘れないと思う。他の赤字も確認したが、大きな修正もなかった。これが初めて、編集長に褒められた原稿になった。堪えられず、お馴染みのトイレに行った。悔し涙以外に流す涙は、初めてだった。

しばらくして、編集長が帰ってきた。私の顔を見て、「なかなか面白かったぞ。愛だよ愛、愛が大事なんだよ。まあ頑張れよ」と言って、またタバコを吸いに行ってしまった。

その時、編集長の「そこに、愛はあるのか?」の意味がようやくわかった瞬間だった。愛を持って、ワクワクしながら企画を考えること。責任を持って、自分をページを愛すること。1文字ずつ丁寧に、文章を書くこと。読者に素敵な文章を届けるために、何度も何度もチェックすること…。

私の任された特集には、知らない間に愛がたくさん詰まっていた。

「そこに、愛はあるのか?」

フリーランスになった今でも、時々、この言葉を思い出すようにしている。どんな仕事も丁寧に、愛を込めること。

そして自分が楽しんでいれば、知らない間に愛がたくさん詰まっている。編集長のおかげで、人生の中でとても大切なことに気づくことができた。これからも一生、この言葉と一緒に生きていきたいと思う。

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