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「冷凍保存」

ウスバカゲロウが一匹
空っぽの冷凍庫に

ゆらゆらと電燈の下 漂わせていた翅は
もし今、指で触れたなら
こんな鼓膜では確かめられない程の
微音をたてて崩れ去るだけだろう

だから

そのまま冷凍保存
ウスバカゲロウ 一匹

胎内に宿した
呼吸も記憶も併せて
冷凍庫の中に

切り刻んだ腕も 流れ堕ちた血潮も
今は
冷凍保存して

時流から切り離されても
この子宮は年輪を刻む
誰が何が いくら忘れ去ろうとも

 マダ何モ 終ワッチャイナイ
 マダ何モ 始マッチャイナイ

やがて
冷凍庫はその
許容量に限界を来たし、
解凍が始まるのだ、諸々の

そしてウスバカゲロウが再び
その翅を 拡げる

―――詩集「胎動」より

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