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「喪失」

言葉が消えてゆく
コトバがコトバじゃなくなってゆく
聴覚に異常は在りません
いたって普通でしょう
偉そうなお医者さんがいくらそういったって
消えてゆくものは消えてゆくんだ
あんたには分からなくても

ウレシイという感情は
カナシイという感情は
ムナシイという感情は
やがてコトバだけ一人歩きしはじめ
私から離れてゆく
私はふと立ち止まり
今この胸の中にうずくまる誰かは
一体誰だろうと首をかしげる
ウレシイだったかしら
カナシイだったかしら
ムナシイだったのかしら
よく 思い出せない

つながらない糸を
いくらつなげようとしたって
それは無理なことで
ちぎれたコトバの糸を
どう紡ごうとしたって
紡げないものは紡げない

―――詩集「対岸」より


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