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繰り返されてゆく仕草で 記憶に 埋め込まれてゆく 微妙な角度の違い 速度の違いで 猫の眼のように変わる 恋の色合いを 謀っている 互いに 疑い合うことが 信頼を上回り、 罵り合うことが 語らうことを押し退けてゆく頃、 終章さえ見失った 恋の姿に 気づく。 ―――詩集「十三夜」より
濡れた舌に包んだ夜を 黒猫が 齧る カリコリ と、微かな音を立てて カリコリ カリコリ と、漆黒の闇に響き渡る 足元の、朗々と流れ続ける川面を覗き込めば 途方に暮れるだけ 記憶の欠片がその片割れを求めて カリコリ と、響き続ける音色に乗って 名も無き稚魚が飛び跳ねる ひとが記憶の向こうに隠し込んだ過去たちを 数え上げるように 黒猫が夜を齧る カリコリ、という音と 名も無き稚魚の飛び跳ねる パシャリ、という水音が 響き続ける 夜が明ける、その日まで ―――詩集「十三
しなだれる 女の 髪のにほひほど まやかし で あることを 教えてあげよう、おまえに 今 ここで ほら、 おまえの腔が あたしの腔が 熱く熱く 膨れているのに あたしはこうしておまえのことを 見下す目を 持っている それが、「女」 ―――詩集「十三夜」より
己の貌が、 鏡に映る己の貌が、見るも無残に爛れ、 その貌に 影のように寄り添い、知りもしない女の顔が あらはれ、 透き通るように白い 滑らかな肌に まだ 何の穢れも知らぬ気の、黒き瞳を湛える女の貌が あらはれ、 私は 為す術もなく、鏡に映る その 二つの貌から 眼を逸らすこともできず、 ああ、 鏡には今夜も 二つの貌があらはれ、 あらはれ、 ―――詩集「十三夜」より
月が嗤う たらり たらり 青い血が たらり 夜が 深まる 白い血が だらり 夜が 浮き立つ たらり たらり 嗤うごとに 気を遠くさせる ―――詩集「十三夜」より
この満月を、おまえに 気づかれる前に 呑み干してしまいたい のっぺらとした頬を 撫でる黒闇を真似て この手では決して触れること叶わぬおまえの その輪郭を なぞっては みる けれど こうしているうちにも おまえは その妖躰を 猫の眼に 晒している ―――詩集「十三夜」より
黒髪をほどいて 振り向くな、女 たちこめるおまえの匂いで 息が できない すべてを見透かしたような 邪気に噎せ返る唇を 晒すなよ、女 それが 熟れた過日なら 誰だって 貪りたくなる ―――詩集「十三夜」より
髪が 伸び、 ひきずるほどに 伸び、想いも 綴れない言葉が その重さ全身でのしかかり、 私は、 まるで 他人に見える自分の 貌 を 鏡の中に 見つける。 ―――詩集「十三夜」より
それ以上欠けることも 満ちることも知らぬ月が 夜の闇に ぽっかり 浮かぶ。 男が 思う。重なり合いながらもひどく 冷たい女の唇によく似ている、 と。 女が 呻く。抱き合いながら見下ろして来る 冷めた男の眼にそっくりだ、 と。 それ以上欠けることも 満ちることも知らぬ月が 夜の闇に 浮かぶ。 ぽっかり、 ぽっかり ―――詩集「十三夜」より