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野草たちの息づかいが聞こえる 善師野の庭 -前編-

「”雑草”と呼ばれる、庭や道ばたの草花だって、
一つひとつにちゃんと物語がある」。
愛知県犬山市の善師野(ぜんじの)に暮らす半谷 美野子(はんや みやこ)さんは、そんな野草に魅せられた一人です。
イタドリジャムにスギナ塩、薬草で仕込む常備薬など、
季節の野草を取り入れた暮らしを訪ねました。

草を食べるという行為には、人間の本能を目覚めさせる力があるのかもしれない。
足元にじっくりと目を凝らし、柔らかな若葉の感触を確かめ、香りを嗅ぎ、摘み取り、味わう。生きるための営みにおいて、これ以上ないほどにシンプルかつ原始的、五感が研ぎ澄まされていくような感覚がある。

―見るだけでなく、体に取り入れることで、自然がグッと身近になります。
そう話すのは、犬山市を拠点に、講座やワークショップを通じて野草の魅力を伝えている半谷美野子さん。

野草摘みでは、草花が子孫を残せるよう、根っこからは抜かず、必要な量だけ分けてもらうのがルールだ。ヨモギやフキノトウといった山菜に代表される食用できるもの、薬用効果を持つもの、服や石鹸、化粧品の材料になるもの―これらを有用植物と呼び、日本では昔から、植物の力を生活に役立ててきた。

一方で、可憐な姿のスズランや、水辺に群生するスイセンなど、身の回りには有毒植物も数多く存在する。毒を持つのは、病気や虫、紫外線から自分の身を守るため。人間にとって有用な効果も、時に命を奪う毒も、すべては植物たちが自然界で生き抜き、子孫を残すべく身につけた手段だ。

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植物図鑑は子ども時代からの愛読書。常にリュックに持ち歩く。

春先に芽吹いた小さなタネが花を咲かせ、山々のみずみずしい若葉が深い緑へと移ろう初夏。半谷さんが家族と暮らす、犬山市善師野の自宅を訪ねた。

テラスの先には、野草のための庭がある。
ヒメジョオン、ミツバ、イタドリ、スズメノエンドウ、カタバミ、ドクダミ、ヘビイチゴ……。家を建てる以前は手つかずの藪で、ほとんどが自生していたものという。

―子どものころ、イタドリをかじりませんでしたか? “スカンポ”“スッポン”など各地でいろいろな呼び名があって、皮をむいて砂糖で煮ると、西洋のルバーブのようなジャムになるんです。

足元の赤い実は、ヘビイチゴ。ホワイトリカーに漬ければ、虫刺されのかゆみ止めに使えます。名前がいかにも毒っぽいけど、食べても平気。私はあまり味を感じませんが、中には“甘い”というお子さんもいます。

自然界に絶対というのはなくて、味や香り、効き目の感じ方は人それぞれ。こんな風に、一つひとつに物語があるので、庭へ出るとなかなか帰れなくて。

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厄介者のイメージがあるドクダミも、半谷さんにかかれば立派な薬草に。

-後編に続く-

photo こんどうみか 「ほとりプレスvol.1」より

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