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雪かきコミュニケーション

例年よりも早く、しかもたくさん雪が降った。

今までは毎日勤めに出ていたので、雪の朝は雪かきと時間との戦いだ。しかし今私は家にいるので、私の至上命題は、移住1年目で雪に不慣れな夫の車をいかにスムーズに安全に送り出すかだ。夜のうちにしょんで(凍って)滑らないように日中いかに雪を除去し、朝は夫がはまった新雪を餅つきの合いの手のようにいかにスムーズにサッと掻き出すかなど、自分なりの美学を持って取り組む。滞りなく夫の車を見送った後は、安堵感とちょっとした達成感に包まれる。もう少し雪かきをしてから、ちょっと休憩。そのうち、放置していた赤子が泣き出すので、授乳。乳腺炎の名残で調子が悪いのでしっかりと吸わせていると、気づくともう昼。ここ数日はそんな感じだ。

午後は、自分の車にも取り掛かる。急ぎではないので野晒しにしていた私の車も、このままでは雪に埋もれてどこにも出られない。明るいうちに、なんとか雪を掻いておこう。道に面した前方だけを掻けばいいかと思ったら、横も、横から流れ込んだ車の下にも雪が詰まっている。三方の雪を除去する頃には、汗びっしょりで息があがる。着ていたダウンコートの前を開けて、冷たい空気を入れる。

さて車を動かしてみようと、エンジンをかけて乗ってみる。前には動く。でも、道に出るには鋭角ではなく右斜前方に曲がらなくてはならない。角の雪を掻いていなかったので、曲がろうとした時に右前のタイヤがズボリとはまる。ギュルギュルギュル。タイヤが空回りする音が響く。ああ、これだこれ、嫌な音。これ道路でなるとめっちゃ焦るんだよなあ、などと思いながら、はまった部分の雪を掻こうと車を停めて降りると、前の家のおばあちゃんがスコップを持って出てこられた。この方は一人暮らしなので、若い私が動かなきゃと思い、「あ、雪かきするなら手伝いましょうか?」と言ったら、「いや、あんたのテゴ(手伝い)しようと思って」とおばあちゃん。私のギュルギュルを聞いて、テゴしに出てきてくれたようだ。独居老人という目で見ていたのがどっこい、雪国の先輩で、助けるどころか助けられてしまった。

その場は終わり、家に戻ってまた授乳などしていると、しばらくして窓の外で例のギュルギュルが聞こえてくる。ハハーンこれか、よしきた!と私も赤子をスリングに入れてスコップを持って外へ出てみる。すると、奥の家のおばあちゃんが雪が深くて車を停められないから広場に車を置くので、その停め場所を皆で作っていた。「ありがとうね!」とスーパーの袋を片手に雪の中をズボズボ歩いて帰っていくおばあちゃんの姿を見送りながら、車がないと買い物にさえ行けないこの地域の不便さを改めて感じる。

この集落では、雪という共通の困りごとがあると、頼まれなくても皆で助け合う習慣があるようだ。そして、多くの若者は日中勤めに出ているので、そこに参戦するのは8割方ご老人だ。中でも、買い物などに出るためか、女性が多い印象がある。でも声を掛け合いながら慣れた様子で雪を掻く彼女たちは、本当に力強く頼りになる。勤めに出ている時は全く知る由もなかった、雪かきコミュニケーション。初めての参戦に、少しだけ一体感を感じられて嬉しくなった。