プロローグ
「私の前で、死にたいなんて口にしてみろよ。一番痛いやり方で、さんざん苦しませてから殺してやる」
自殺が死ぬほど嫌いだった彼女は、僕にそう言った約二ヶ月後、右手で、自らの喉元をナイフで裂いて、死んだ。彼女のことを考えると、僕はまだどうしようもなく彼女が好きなのだと気づいて、うまく笑えなくなる。
これから僕がすることを、彼女が許すとは、とうてい思えない。自殺ではないけれど、限りなく、本当に限りなく、自殺行為に近いからだ。ついでに言うと、その結果として、彼女が生き返ることはない。どこかの誰かの命が救われることもなければ、世界が平和に戻ることもない。空に虹が架かることもなければ、捨てられた仔犬が親切な人に拾われることもないし、泣きじゃくる少女の声が止むこともない。僕が幸せになることも、おそらく、ない。
僕はただ、彼女の記憶を取り戻しに行くだけだ。彼女と生きた時間を取り戻す。ただ、それだけのために、僕は一人の殺し屋と対決する。
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