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コハダは塩と酢で、完全なる結晶となる!

江戸前のすし種で一番好きなものは「コハダ」です。光もので、青魚の代表格。これが無いとすし屋は成り立たないのですが、旬について考えてみると、実に不思議な魚です。

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ご存知のようにコハダはある一時期の名称で、別名出世魚とも呼ばれています。関東地方では、4~5cmまでの幼魚を「シンコ(ジャコ)」、7~10cmぐらいまでが「コハダ」13cm程度のものは「ナカズミ」、15cm以上を「コノシロ」と呼びます。日本橋・吉野鮨本店三代目にして、俳優で鮨学の泰斗でもある吉野曻雄氏の『鮓・鮨・すし すしの事典』によると、「シンコを握りずしのタネに用いる場合、一尾では少し小さいので、二尾づけにする。なんといっても、いまだ脂肪分には不足があるが、初物の清新さもさることながら、そのやわらかい舌ざわりと淡白さの中に秘められた、こまやかな味は、シンコのすしのみが持っている天下の美味であろう」と。

しかし、出生魚だというのに、一番高いのは幼魚のシンコで、成長とともに段々と市場の値段が下がってくるというのは違和感があります。実際、シンコの出始めには、何枚づけのシンコが出せるというのが自慢のすし屋も多い。シンコは高値がつく上に、小さくさばくのに大変手間がかかるのですが、そんな苦労も知らず、食べ手は一口で頬張って「今年のシンコは旨いね」などとのたまう訳です。

ここ数年、すし屋でのすしの写真を記録用に撮っているのですが、コハダばかりをまとめてみました。ずいぶんコハダを食べたものだと実感しつつ、よくよく観察してみると、どうみてもコノシロじゃないかと思われるものもあったのです。シンコの時期は短いけれど、コハダは通年すし屋の定番で置いています。コノシロを出していると思われるところは、1貫50円からの安いすし屋で、コノシロを小さく切って包丁目も入れていました。

前出の吉野曻雄氏によれば、コハダは小さいのでおろすには熟練の技が必要だそうです。
充分に振り塩して、寝かせて、水洗いして、水を切って、さらに1匹ずつ「酢洗い」をして、酢切り後に酢漬けをする。季節や温度で酢漬けの時間が異なりますが、コハダで15~20分程度、シンコはもっと短くなります。本当に手間なコハダですが、この手間無しに美味しいすしは出来ないのです。

コハダと言えば、麻布十番に「ケ・パッキア」というイタリアンの店があるのですが、ここの岡村光晃シェフ、実はコハダ作りの名人なのです。えっ、イタリアンでコハダ!?と思われるかもしれませんが、彼のコハダの仕込みは江戸前すしと同じ手法なのです。アンティパストに魚の盛り合わせがありますが、カルパッチョとも違う、まさに江戸前イタリアン。以前、ここのコハダの仕込みを取材したことがあります。まず、ザルにコハダが見えなくなるくらい振り塩をして酢洗いする様子は、まるですし職人のようでした。なにせ、岡村シェフのコハダの師匠は「すきやばし次郎」の小野次郎さんで、次郎さんから直接手ほどきを受けており、そのコハダに関しては次郎さんが太鼓判を推しているのです。塩と酢だけの処理で、クセの強いコハダがこんなにも美味しくなるマジックは、本当に魚を知り尽くした職人の技。ただただ感服するばかりなのです。

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(2018.5.25公開)

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