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『未必のマクベス』面白い小説ほど何の役にも立たない

「読書をする人は年収が上がる」といったネット記事をよく見かけますが、あれは嘘でしょう。

それは年収が高い人にアンケートなどを取り、そのなかで結果的に読書家が多かっただけです。これを生存者バイアスと呼びます。

年に5冊以上の本を読む人は確かに賢い人が多いが、賢いことと年収が高いことにそんなにわかりやすい相関関係があるほど、世の中はわかりやすくはありません。

ミステリの女王であるアガサ・クリスティーは、戯曲も含めると全100作品という大量の作品を世に残しています。これらを全巻読んだところで、来月の給料があがるでしょうか、きっとあがらないでしょう。

100作品を全巻読み終えるのには相当な時間がかかります。その時間にアルバイトやウーバーイーツの配達員の仕事をすれば、結構まとまったお金が稼げるはずです。

本を読むだけで勝手に年収があがるかの様な記事を信じてはいけません。ただ、読書は価値あることだと言う主張は間違ってはいないので、それにより本を読むようになるのならば、結局は良い結果に繋がるはずです。

僕がここ何年かで読んでみて、物凄く面白かった小説に『未必のマクベス』という一冊があります。

香港を舞台にするミステリ小説であり、恋愛小説でもある本書は、いわゆる「徹夜本」とも言うべきページをめくる手が止まらなくなる、凄まじく面白い展開が繰り広げられ続ける傑作中の傑作だったなぁと強く思っています。

本作はシェイクスピアの『マクベス』が下敷きとなっており、マクベスのストーリーに沿う様に物語は進み、だんだんと破滅的なラストに向かっていくのだけれど、そのなかで登場人物たちは青春時代のほろ苦い思い出から残酷な大人の社内政治のいざこざまでを、どうにかこうにか生き延び続けていくのです。

「面白い小説を読みたい」という人にはぜひともおすすめしたい一冊ですが、「給料が上がらず困っています。何か役に立つ本を教えてくれますか?」と言われておすすめできる本では決してありません。

この小説は本当に面白かったのだけれど、何かの役に立ったかと聞かれると、何の役にも立ってないと答えざるを得ません。本を読んだところで、人生の役に立たないことなんてザラにあるのです。

ただ、『未必のマクベス』を読み終えて、その余韻に浸っている時に「こんなに面白い小説があったのか」と思ったことを強く覚えています。

「世の中にはこんなにも面白いものがある」

この発見があれば、それはそのまま「生きがい」に繋がります。こういう気持ちを抱ければ、明日もあさっても楽しみになります。これって実は一番大切な感情ですよね?

純粋に面白いと思えるだけの読書は、給料が上がるようなわかりやすいメリットを与えてくれるわけではありません。

しかし「世の中にはこんなに面白いものがある」という感覚は、その後の人生をより楽しみにさせ、活き活きと暮らしていくための土台にもなり得る、実は最も大切な経験をすることができます。

さぁ、読みましょう、面白い小説を。

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