一度は経験しておきたい無職期間|読書三昧の至福の時
「無職」というと、あまりなりたいものではないかもしれませんが「一度は経験しておいても良いぞ」という話を書こうと思います。
なぜそう思うのかと言うと、僕が過去に無職期間を経験しているからです。その期間は約1年半、2011年7月~2013年2月くらいまでです。ちなみに新卒で会社員になったのが2011年4月だったので、わずか3カ月だけ働いて(正確には研修を受けただけ)あっという間に無職になってしまったのです。
しかし、実は無職ではなく「休職」状態で、給料の6~7割くらいが支給され、実家暮らしであったことからお金は貯まり続けていました。
休職した(無職になった)理由は胃がんが見つかってしまったからです。2011年7月に告知をされて8月に手術をしました。
だから、自分の弁明のために言うと働いていなかったのではなくて、闘病をしていたのです。しかし「休職」とは言え、2012年3月に復職はできずに結局は退職となったので、仕事をせずに職がなかったという意味で紛れもなく「無職」でした。
この期間の経験を語る時は、病気がもたらした死生観の変化や闘病の苦しみ、社会からの疎外感など、苦しかった時の経験がどうしても多くなります。そういった経験は後に活きてくるので、何も完全にネガティブな要素ではありませんが、その話を聞く限りだと苦しいストーリー以外の何者でもありません。
しかし、一方で僕はこの期間に「至福の時」を過ごしていたという事実もあります。
胃がんに罹ってしまったけれども、手術は成功していたため、一応は身体からがんが取り除かれていたことから、体調は少しずつ回復傾向にあります。困っていたのは食事がとれないことと抗がん剤の副作用です。
それでも、これらは何も一日中苦しんでいるわけではなく、波があるものでだんだんと自分の生活リズムを掴めるようになってきます。自分の時間ができてくるのです。
そこで、死生観の変わった僕は猛烈に読書を始めました。転んでもただでは起きぬマインドで、とにかく本を読み漁っていたのです。
当時、今ではドワンゴが運営している読書メーターという読書記録をシェアできるサービスを見つけ、人前に出たくなかった当時の僕は偽名でアカウントを作り、読んだ本を登録して感想を書き続けていました。
いつからかその存在は忘れてしまっていたのですが、先日そのアカウントがブックマークの奥深くから発見され、10年ぶりに見返してみたところ、どうやら約8カ月、240日程度で175冊もの本を読んでいたようです。2日に1冊以上のペースで読了しています。
闘病の痛みや苦しみと闘う時間以外は、多くの時間を読書に充てていたのです。
そして、まるでタイムカプセルを開けたような高揚感を感じながら、当時の僕がなにを読んでいたのかを遡ってみました。
坂口安吾、太宰治、三島由紀夫、谷崎潤一郎、吉村昭、有吉佐和子、江戸川乱歩、西村賢太、村上春樹、海堂尊、川上未映子、角田光代、フランツ・カフカ、アルベール・カミュ、サマセット・モーム、ジョン・スタインベック、と続々と名著と呼ばれる小説を読みまくっており、河出書房の世界文学全集もコツコツと制覇に向けて読み進めていたようです。
これらの本を実家の部屋で、または図書館で、病院の待合室で、マクドナルドやモスバーガーで、スターバックスで読みまくっていたのです(休職手当と傷病手当金を貰いながら実家暮らしをしていたので、カフェ代を惜しむ必要がなかったのが良かった)
読書が好きな人ならわかると思いますが、これだけたくさんの本を読むと自分の思考に何らかの影響を与えることは間違いありません。無職であり病気に苦しむ当時の僕は、本を読むことで内なる世界をただただ拡げていくことを生きがいにしていました。
こうして無事に生き残って忙しく働いている現在、この読書メーターを読み返してみると、あれは本当に至福の無職期間だったなぁと思えます。無職という社会との繋がりが絶たれた状態で読む文学は、深みと味わいのあるものばかりで、その後の人生の役に立つ考えをたくさん貰うことができました。
病気になることもなく、給料も上がり続けて素敵な出会いを満喫していたかもしれない人生よりも、闘病しながら無職のあり余る時間を読書に充てていた期間の方が至福の時だったと思えるなんて、読書には相当な影響力があるに違いありません。
そして、そんな猛烈な読書ができたのも、無職期間という「時間」があったおかげです。もし、何かの不運で無職になってしまったとしても、その時間を有意義に使えれば「一度は経験しておいてよかった」と振り返れるようになるはずです。