楽しそうなおじさんになることの意義
「20代のうちにやるべきこと」といった論調の記事をよく見かけることがあります。人生において大事な時期ですよね。
就職、結婚、出産、転勤、転職、ライフイベントの多くが20代のうちに訪れることが多いことも理由のひとつかと思いますが、将来に向けた成長の前段階として貴重な時期であることが「やるべきこと」と言われる何よりの理由なのだと思います。
体力があってエネルギッシュであるうえに、結婚や出産を迎えていないうちは守るべきものも比較的少なく、積極的にリスクを取りに行くこともできます。
また、あらゆるエンターテインメントでも、20代の若者にスポットを当てた作品が多いことも人々の潜在的な意識に影響を与えていると思います。20代の若者の恋愛は見た目も美しくドラマ性があり、20代の若者のスポーツの方が身体能力があるため高いパフォーマンスが発揮されます。
仕事においても最も基礎的なスキルを身に付けることができる時期であり、将来の活躍に向けての前段階は様々なことを学ぶ貴重な時期になります。
これらが総合的にイメージされて「20代のうちに…」と言われるようになるのでしょう。
そんな貴重な20代の時期を僕はほとんど闘病をして過ごしてしまっていました。23歳の頃に胃がんに罹ってしまい、その治療とリハビリ、そして社会復帰に長い時間を掛けてしまったからです。
こういった経緯があるので「20代のうちにやるべきこと」といった記事を見る度に手遅れになった感覚を抱きます。「30過ぎてからでもいいじゃないか」と思うわけです。
自分が20代の頃には、30代を過ぎてからの人生はとても大人びているものだと想像しており、一定の安定感があって大きなリスクを取りに行くような印象は持っていませんでした。
そのうえ「20代のうちに色々と楽しんでおいた方がいい」という意見はたくさん聞いていたので、20代こそが最も楽しく、20代こそが最も輝いているものだと思い込んでしまっていました。だからこそ20代を闘病に費やしてしまったことに強い喪失感を抱いていることにもなります。
しかし、20代の中盤頃から闘病期を乗り切るため、大量の読書をするようになりました。色々な作家のエッセイを読んでいると、大人たちの楽しそうな人生を垣間見るようになってきます。
20代特有の衝動的な勢いこそなくとも、ある程度の人生経験を積んでからの見解や得意な体験など、実はおじさんたちの方が人生を楽しんでいるのではないかと思うようになったのです。
一定の責任を果たしながらも、自由に仕事をこなし、自由に旅行に出かけ、自由にお酒を飲んで、色々な人と交流をする。大人たちが語る人生観をしっかりと読んでみると、大人になってからの人生は実に面白そうなのです。
これらの事実を知ってからは、闘病で負けるわけにはいかないという気持ちが一段と強くなりました。自分もおもしろいおじさんになれるよう、長生きする必要が出てきたのです。
「20代のうちにやるべきこと」といった教えを若い人たちに伝えるのも大切だと思いますが、僕は自分の経験上「おじさんになってからの人生の方が面白いものだよ」と伝えることで、多くの若い人に長期的な人生の展望を持ってもらいたいと思っています。