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スマートではない幸福な生活|MDをこよなく愛したあの頃

今は音楽を聴くときは基本的にPCかスマートフォンを使ってSpotifyで音楽を聴いています。もうかれこれ10年近くプレミアム会員を継続しています。

大学生の頃にiPodが流行し、その後はiPhoneまで進化を遂げ、現在のサブスクで音楽を聴く時代が到来しました。

進化を遂げた反動からアナログレコードへの回帰という現象が起きましたが、非常にその気持ちはよくわかります。物への愛着というものが湧くものなのです。

しかし、僕が音楽を聴き始めた時代はちょうどカセットテープから「MD(Mini Disc)」という媒体に進化を遂げている時期でした。ミュージシャンはCDを販売しますが、カセットテープやMDはCDの音楽をダビングすることができるのです。

なぜダビングをするのかというと、CDを買うとアルバムであれば3000円程度の金額がかかるため、TSUTAYAの様なレンタルCDショップで大量にCDをレンタルしてカセットテープやMDに全てダビング作業をすることで、価格を下げてたくさんの音楽を聴くことができるようになるからです。

学生の頃の僕は毎週のように自転車を漕いで地元のレンタルCDショップに足を運び、気になっているアーティストのアルバムを大量にレンタルして自分の部屋でコツコツとMDにダビング作業をしていました。

ダビングすることができたMDは、MDウォークマンに入れれば持ち運ぶことができて、運動中や電車の中でも聞くことができるようになります。

MDがカセットテープよりも優れていたのは、サイズが小さいこともそうですが、MDにアルバム名や曲名を入力することができる点です。MDはデジタルデータなのです。

また、ダビングもカセットテープの場合はダビングするだけの再生時間をかける必要がありますが、MDも進化を続けており「4倍速ダビング」など時短の機能も付くようになっていったのです。

これらMDにアルバム名や曲名をコツコツと登録したあとはラベルを貼って表題を手書きで書き、その後にまた自転車を漕いでレンタルCDショップまで返却しに行きます。

今になって振り返ってみると、凄まじく手の掛かる作業であり、その後iPodやiPhoneに取って代わってしまう理由がよくわかります。

しかし、当時の僕はレンタルCDショップへの移動も含めたMDへのダビング作業を全て楽しんで行っていました。

「好きなだけ聞くことができるようになる」

「通学中の時間が楽しみになる」

こんな風に考えながら毎回の作業を熱心に楽しんで行っていたのです。そしてMDをウォークマンに「カシャッ」とセットする音が何とも言えない愛着感を持たせてくれたのです。

現在僕が愛用しているSpotifyは曲の豊富さやレコメンドしてくれるプレイリストも優れており、ユーザーインターフェースも美しい高品質なサービスだと心から思っています。

しかし、何故だかMDの様な愛着までは湧いていません。

これはきっと当時の僕が熱心にダビング作業を続けていたことが関係しているに違いありません。人は自分が熱心に取り組んだものに愛着を抱くものなのです。

こうして考えてみると、どんどん便利なサービスが増えていく現代ですが、本当の幸福感というのはスマートではない時代の方が享受できるのかもしれません。

便利になればなるほど幸福感が減っていくなんて、人間は不思議で難しい生き物だと思います。

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