DX担当、アナログレコードを語る
現在は教育福祉業界で働いていますが、もともとIT企業でプログラマーをしていた経験があることから、デジタルに強い社員としてもてはやされています。
少し失礼ではありますが、教育福祉業界はデジタルに弱い人が多く、IT業界から転職してきた身としてはカルチャーショックを感じるほどでした。(僕の会社だけがデジタルに弱いのかもしれません)
実直に作業を頑張ることができるゆえに、デジタルで楽をしようという発想に乏しいのだと思います。真面目な姿勢も業務効率化においては足枷になることがあるのです。
そんな教育福祉業界も昨今のDX化の流れに飲まれることとなり、業務改善が急務となってきました。しかし、ITの知識や経験がある社員は少なく、そういった会社ではそもそも何を導入すれば良いのか、その検討をすることさえ二の足を踏んでしまうようです。
そういった流れのなかで、先月からなんと「DX担当」に任命されてしまいました。「これでいいんだろうか」と思うところがありますが、仕事なので責任を持ってやるしかありません。
しかし、僕にとっては、就職して生きていくために無理やり勉強して身に付けたのがITの技術でした。もともと好きでやっていたものではありません。
本来は手書きで日記を書き、紙の本を読み、アナログレコードで音楽を聴くような学生だったのです。
デジタルの便利さは身に染みてわかっているので、今では多くのデジタルツールを活用していますが、好みを語るのであればデジタルよりもアナログの魅力の方が熱く語ることができます。
今回はアナログレコードの魅力を語ろうと思います。全て個人的な偏愛なので参考までにどうぞ。
文字通りグルーブが生まれる
「グルーブ(groove)」という言葉があります。元々は「溝」や「穴」を意味する言葉でしたが、レコードの表面に刻まれた細い溝のことをグルーブと呼ぶようになり、これらの溝に沿って針が移動することで音が再生されます。
グルーブは時が経つにつれて、音楽の分野で「リズム」や「感覚」を表す言葉として使われるようになりました。
アナログレコードで音楽を再生すると、自らグルーブに向けて針を落とすことから、音楽を聴くときに文字通りグルーブを感じ取ることができます。
針がグルーブを進んで中央に向かっていく様子に、音楽が再生されていくリズムや雰囲気を感じ取ることができるのです。
これは感覚的なものなので、あまり合理的な説明をすることができませんが、試したことがない方にはぜひ体感してみていただきたいものです。
大きなジャケットとジャケット裏面の魅力
アナログレコードは商品が小型化される以前の作品であることから、ジャケットそのものが大きいままです。利便性からすると持ち運びは大変かもしれませんが、その分ジャケットのインパクトは大きいまま残っています。
この大きさが物質的な魅力を感じさせてくれるため、収集家の心を惹きつけてくれます。インテリアとしても最適です。
また、現代のサブスクリプションで音楽を聴く場合も、アルバムジャケットは画面上に表示されますが、デジタルであるがゆえにカットされている部分もあります。それはジャケットの裏面です。
キング・クリムゾンの名盤で確認してみましょう。このアルバムは画家のバリー・ゴッドバーが鏡を覗きながら描いた自身の自画像を発展させたものです。
有名なジャケットなので見たことがある人も多いと思いますが、レコードで持っているとその全貌を見ることができます。
僕もレコードで買うまではこの裏面の存在に気づきませんでした。CDで買えば裏面も存在しますが、小さくなってあまり気になりません。サブスクの画面表示ではそもそもカットされています。
ブルース・スプリングスティーンの『Born to Run』もレコードでジャケットを見ると、同じように全体像を見ることができます。一般的に有名なのは下記のジャケット表面です。
これをレコードで広げてみると、この様になります。
このアルバムでテナーサックスを演奏しているクラレンス・クレモンズが写っています。スプリングスティーンとは40年来の友人でもあります。
現代ではそもそも意識されない部分を知ることで、より当時の雰囲気を感じ取ることができます。
アナログレコードで音楽を聴くことで、その表の魅力だけではなく、裏側まで堪能することができるようになります。
A面とB面|B面の一曲目
ビートルズの最も有名なアルバムのひとつ「Abbey Road」に収録されている『Here Comes The Sun』は、ジョージハリスンが作曲した最大のヒット曲です。
Spotifyではこの記事の執筆時点で1,186,832,474回の再生がされている名曲中の名曲です。
こういった有名曲は曲単体であらゆる場面で再生され、ベスト盤にも収録され、世界中にひとり歩きをはじめるように拡散されていきます。
しかし、「Abbey Road」もアナログレコード盤で聞くことで気づくことがあります。ビートルズにとっての、この曲の立ち位置を想像することができるのです。
アナログレコードにはA面とB面が存在します。A面が表でB面が裏です。
レコードの外側に針を落として、円の外側から内側に向けてグルーブを辿りながら音楽が再生され、円の中心に針がたどり着いた時にA面の曲が終わります。
その後に聞き手はレコードを裏返してB面の円の外側に針をもう一度落とす必要があります。
ここからが後半の幕開けとなります。「Abbey Road」のB面はビートルズのなかでも最高傑作と言われているほど、それぞれの名曲がメドレーとなって流れていく最も有名なもののひとつです。
『Here Comes The Sun』はそのB面の一曲目です。ビートルズの最高傑作は『Here Comes The Sun』の爽やかなギターフレーズから幕を開けるのです。
この幕開けが作業的に割り振られてたまたまB面の一曲目に配置されたとは考えられません。
こういった各曲の立ち位置はサブスクリプションで断片的に曲を聞いていてもなかなか気づくことができないものです。昔の音楽を聴くのならば、アナログレコードで聞くことで、より当時のリスナーと近い感覚でアーティストのことを理解できるようになります。
仕事ではデジタルになれる
こうしてアナログの魅力を書き連ねているうちに、やはり自分は何だかんだアナログな営みが好きなんだということを再確認しました。
こんな自分が仕事でDX担当を名乗っていいのかわかりませんが、これが不思議なことにタイムカードで「出勤」を押せば、それだけでアナログからデジタルにスイッチを切り替えることができるようになっています。
まるで変身するように仕事とプライベートで人格を分けることができるなんて、株式会社における会社員とはつぐつぐ不思議な制度だと思います。
仕事ではデジタルに働き、週末はアナログに浸る日々を、もうしばらく続けることとします。