紙に印刷して、束ねて、読む
その書店は古い街のその又古い家々が連なる坂の上にあった。この辺りは庶民的な商店街がある一方で、歴史的なブランド性から高級住宅地の顔を併せ持つエリアである。本離れが進み、実店舗が宅配書店に圧されてどんどん廃業している昨今には珍しく、一階に個性的な品ぞろえの書籍を置き、書店として機能している。店舗面積は極小で品ぞろえの癖が強いその書店が、何故、何十年とたたむ事無く存在し続けて居られるのか。
書店のオーナーが資産家である。これは正解である。実は書店の位置するのはオーナー所有のマンションの一階の極一部に過ぎない。家賃が不要である、というより本来の収入は家賃から得ているのであろう。
高額の古書を販売している。これは不正解。確かに癖は強いが、ちゃんと他の書店でも販売している新本ばかりで、ネットでも購入できるものばかりだ。実はこの書店はライブ会場を併設している。そこに人気の著作者を招いて、頻繁にトークライブを行っているのだ。人は退屈を嫌悪し、好奇を愛す。洋三は未だ呼ばれていない。
〈掲載…2018年4月30日 週刊粧業〉
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