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エッセイ「贅沢者」

みんな、明けましておめでとう❗今年もよろしく❗(写真は今回紹介する俺のエッセイに出てくる『人間の土地』の表紙。カバー装画は宮崎駿。)

さっそくだが、2025年1月1日(水)の四国新聞の新年読者文芸(募集されていたエッセイのテーマは「頂き物」)で俺の投稿したエッセイ「贅沢者」が佳作となった。ただ、第3席までの作品しか文章が紹介されず、タイトルのみの紹介だったのでここで俺の投稿したエッセイを以下に、紹介したい。

「贅沢者」

 私は昔から読書が好きで、今でもよく本を読む。いつも感じるのは、本との出会いは人との出会いにとても似ているということだ。自分にとって大切な本との出会いも、予期していない方向から突然訪れる時もある。
 私が座右の一書ともいうべき本と出会ったのは、大学一年生の時だった。当時、私は東京の八王子にある学生寮に住んでいた。
 ある日、授業を終えて寮に帰ると、同じ寮に住んでいた先輩が近づいてきて「石井君、今日、誕生日だよね?おめでとう!これ、僕から石井君へのプレゼント。ぜひ、読んでみて」と言いながら、一冊の本をくれた。先輩は、私が読書好きなことを知っていてくれたのだろう。本の裏には先輩からのお祝いのメッセージも書かれていて、私は心の底からうれしくなった。
 先輩がくれた本のタイトルは『人間の土地』。著者は『星の王子様』で有名なフランスの作家、サン=テグジュペリだ。彼は、職業飛行家としても活動していた。この本では、飛行家として体験した様々な出来事について書いている。
 私は、早速その本を読み始めた。しかし、内容が難しくて、面白いとも思えなかった。なんとか最後まで読んだが、心に残るような言葉もなかった。
 社会人になってからも、本は読み続けていたが、『人間の土地』を開くことはなく、先輩から頂いた本自体、自宅が火災になった時に焼失してしまった。
 そんなある日、私は車による事故で左足の膝を骨折して、入院することになった。その時、毎週お見舞いに来てくれたのが友人のN君だ。彼は私のリハビリの話や入院生活で不安に思っていることなどを、熱心に聴いてくれた。本が好きな私のために、『三国志』を差し入れしてくれたこともあった。
 仕事で多忙な中、何度も何度も病院に足を運んでくれた彼のおかげで、私の心はどれほど救われたか。病院の薄暗い階段をゆっくりと降りていく彼の後ろ姿が、今も脳裏に焼きついて離れない。怪我が完治して後遺症もなく仕事に復帰できた時も、「良かったな!」と満面の笑みで喜んでくれた。
 退院してから久々に本屋に行った時、私は『人間の土地』を目にした。なつかしい気持ちになって本を買い、二十五年ぶりに読んだ。
 すると、不思議なことに書かれている様々な言葉が、私の胸を打つ。本は付箋だらけになった。一番心に残ったのは、次の言葉だ。「真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ。」(堀口大學訳、新潮文庫)
 私は、決して裕福ではない。しかし、尊敬できる先輩や、信頼できる友人を持つことができた私は、この上ない贅沢者なのかもしれない。
 その事を、先輩がくれた一冊の本が私に教えてくれたのだ。

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