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国立大が共通テストで「情報」受験を必須に。今後予想される6つの未来。

ライフイズテックの讃井です。
中学・高校向けに「ライフイズテックレッスン」というプログラミングを学ぶ教材や先生方向けの研修などを提供している会社の中の人です。
今回は、教科「情報」に関わる大ニュースについて、取り急ぎの速報とその先の予測を書きました。

国立大学協会の示した原則

国立大受験にあたって共通テストでの「情報」の受験が必須となりました。2025年1月の共通テストからスタートするもので、今の中学3年生からが対象となります。以前からNewsPicksの記事などでも指摘してきた「2025年情報入試問題」に直面することが確定したと言えます。

国立大学協会(国大協)の発表はこちらです。

「大学入学共通テスト」 6教科8科目の原則
(前段略)
2024年度に実施する入学者選抜から、全ての国立大学は、「一般選抜」においては第一次試験として、高等学校等における基礎的教科・科目についての学習の達成度を測るため、原則としてこれまでの「5教科7科目」に「情報」を加えた6教科8科目を課す。

国立大学協会
2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度 -国立大学協会の基本方針-

これを見る限り、国立大学は、学部を問わず情報の受験を原則必須とするようです。
ちなみに今回の報道は国立大学についてですが、立教大、中央大、東洋大など、多くの私立大学も既に昨年9月時点で受験を課すことを明示しています。

理工学系の大学だけではなく、文系学部のイメージが強い私大も採択している印象です。ただ、文系=社会科学もデータサイエンス(統計)は必須ですし、どんな仕事に就くにしてもプログラミングの理解が一定必要な時代(DX言うならね)ですから、教科「情報」を学ぶ必要性に文理はもはや関係ありません。
なお、情報処理学会は今回の決定を受けて

この方針を歓迎いたします。また、国公私立大学の個別入試においても、「情報」が出題されることを期待します。

一般社団法人情報処理学会
「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度 -国立大学協会の基本方針-」に関する意見
2022年1月31日

というコメントをこちらで発表しています。

共通テストに出る内容はどこで学ぶの?

該当するのは、高校の教科「情報」。科目名で言うと「情報Ⅰ」です。情報は高校1年生で実施する学校が多く、そうでなければ高校2年生での実施が多いとされています。
(なお、実際は「情報Ⅱ」という、より内容が高度な科目もあるのですが、受講者数がめちゃくちゃ少ない関係で、共通テストでは「情報」として一括りにされています)

さて、この「情報Ⅰ」ですが、今年2022年4月から始まる高校の新学習指導要領でスタートする新科目です。教科「情報」は20年やってきているのですは、今回内容が大きく増強されます。
すごくざっくりお伝えすると、プログラミングデータサイエンス(統計)の内容が新しく追加されます。これまで多くの学校で教えてきた旧学習指導要領課程の教科「情報」(社会と情報)では、その2領域は必修ではなかったため、これまで情報を教えてきた先生にとっても相当な準備が必要です。
教員向け教材もすでにこちらで公開されていますが、内容は濃く、大人も勉強になりますが、その反面教える難易度は高いと思いました。

ちなみに共通テストのサンプル問題はすでにこちらで公開されていますので、興味のある方は見てみてください。テキストコーディングをともなうプログラミングや、データサイエンス(統計)についての理解が問われる問題が大きな比重を占めています。

教科「情報」をとりまく構造的な問題

とは言え「20年間も教科「情報」をやってきてるわけだし大丈夫やろ」と思う方もいるかと思うのですが、なかなか難しい構造的な問題があります。
情報専任の教員がめちゃくちゃ少ないのです。文科省の2018年調査だと情報専任の先生は17.5%しかおらず、数学など他の教科と兼任している先生が大半です。

また、各都道府県の情報教員の配置格差が大きく、大阪府や埼玉県など情報専任の先生がほぼ100%の都道府県がある一方、こちらのニュースにある通り、

「20年度に初採用は6道県、21年度に初採用は4県だった。秋田、滋賀、鹿児島は、情報が必履修となった03年度以降1人も採用していない」

朝日新聞デジタル「「情報」専門教員が不足 急ごしらえの講習→採用進まず」
(2021年4月16日)

という情報専任の先生が全然いない都道府県も複数あります。

また、専任の先生がいても教員研修やカリキュラム・教材の準備も大変です。70時間分のカリキュラムや教材を各地の先生がそれぞれで作るなんてことはとても大変かつ現実的ではない。また、新しい内容が入るがゆえに、先生方自身が学ぶ機会も必要です。
そこで、専任の情報教員が多い、大阪府さんも「専任であったとしても、必ずしも(プログラミングやデータサイエンスの)専門ではない」という前提に立って、(手前味噌ですが)ライフイズテックと協働で支援体制を作っています。

そして、地域によってはそもそもの学習環境=パソコン配備への不安もあります。こちらは前回の記事で書きましたが、パソコンの配備率に都道府県間の格差が大きいのです。(前回も掲載しましたが文科省調査では、以下のような感じ)

文科省 学校教育情報化推進専門家会議 (第1回)令和3年9月9日 資料2 より

情報の授業については、学校のパソコンルームでできても(さすがにこれができない都道府県はないと信じたい)、パソコン一人一台あるかどうかで、活動の広がりや自宅での予習・復習の可否が変わってきます。
一部の都道府県では、スマホで情報Ⅰを学んでもらうという考えもあったようですが(ちょっと信じがたい話ですが)、スマホでプログラミングやデータサイエンスは現状厳しいです。
情報Ⅰの履修に合わせて、高校生のパソコン一人一台体制を作ることもセットで実現してほしいところです。

今後予想されること

「受験に入る」という決定の持つ力は想定以上に大きいもので、これからいろんなことが起こってくると思います。予想されることの一部を以下列記したいと思います。

①保護者の目が厳しくなり、入試対策への要望も高まる

まず、高校「情報Ⅰ」の授業をちゃんと実施できているのかと、保護者の目が急に厳しくなります。できていないければ、国立大学受けられなくなりますからね・・・。
また、授業実施の先に入試対策も求められてくるでしょう。多くの学校で高1か高2で授業が実施されるため、高3時には、情報の授業とは別に共通テスト対策をしてくれないかという要望が高まるのではと思います。
また、学校外、塾や予備校でも、受験対策講座を設ける準備が進むはずですし、その講師の採用が激化すると考えられます。

②実践的な体験をともなうカリキュラム設計が求められる

学習科学的な観点からの話なのですが、抽象概念を理解するためには、まず具体操作(実践)が必要だという話です。例えば、小学校の算数では、最初いきなり立式させるのではなく、まずおはじき等の具体物でイメージを持った上で、抽象的な立式に移っていきますが、情報も同じです。
プログラミングやデータ分析を実際にやってみることで、抽象概念を理解でき、共通テストの問題も理解できるようになります。
マーク式のテスト対策を重視するあまり「実践なき情報の授業」が増えることは、実社会につながる情報活用能力が身に付かないことはもとより、テストに直結する知識理解の面でも悪手です。実践的な体験をともなう、カリキュラム・授業設計が求められます。

③自前主義で解決しようとすると詰む

前述の通り、情報の専任の先生が少なく、ほぼいない都道府県も複数ある中で、自前主義で全てをやろうとすると、本年4月からの授業実施、さらには3年後の共通テスト対策も間に合いません。そもそも変化の早い社会の中で、学校や教委が自前主義で全てに対応することは不可能になっており、今回の問題も同様です。外部のパートナー(大学関係者・事業者・NPO・副業人材など)と適切に連携しないと解決に5年・10年とかかり、その間、子どもたちは置いていかれます。
また、自前主義の一つとして、専門的な教員の追加採用をしていく場合、相当な採用難易度であることを想定しないといけません。今回の情報Ⅰの内容を即戦力として教えられる情報系の人材であれば、企業からも引き合いが多くあるはずで、一定の質を担保しながら教員配置を完遂するには、2,3年では全く時間が足りないでしょう。

④中学校のプログラミング教育の見直しが起こる

高校の「情報Ⅰ」のスタートと大学入試への採択、そして、2020年以降の学校のICT環境の変化とそれに伴う子どもたちの成長をふまえ、2022年は中学校のプログラミング教育も見直しを図るタイミングだと考えています。

中学校のプログラミング教育は実は2011年からスタートしているのですが、これまでは中学で初めてプログラミングを学ぶ生徒が多く、ビジュアルプログラミングでロボットやラジコンカーを動かすなどの活動で十分でした。
ところが、2020年のプログラミング教育必修化で、小学校の低学年からScratchなどのビジュアルプログラミングに慣れ親しんだ生徒がこれから中学に上がってきます。一部の先進地域では
「先生これ(ビジュアルプログラミング)もう、小学校の時にやったよ」
という声も聞かれており、中学の先生たちも悩まれています。
また、高校では早いと1年生から、Pythonでプログラミングをやっていく可能性がある中で、小・中学校でビジュアルプログラミングしかやってきていないことは、高校で授業についていけないケースが多発するリスクがあります。

それゆえに、中学校のプログラミング教育ではこれまでと違い、
1. 小学校から明確にステップアップした学習内容
2. 高校「情報」につながる学習内容
の両方を満たすアップデートが必須となります。
ライフイズテックでは子どもたちの成長過程や学習データの実態をふまえ、中学では「テキストコーディングで問題解決の第一歩」を経験することがこれからは必須と考えています。いずれにせよ、学校段階を超えて、各地域で以下のような階段状の成長ステップを議論することが必要です。

⑤地域格差・学校格差が広がる恐れがある

情報Ⅰは高校で学ぶ科目なため私立は各学校で対応しますが、公立は都道府県あるいは政令指定都市の教委が対策方針を決めることになります。そのため、地域による対応方針の格差が出てくる可能性が指摘されています。
教員採用やPC配備にもあれだけの格差があるわけですから、情報Ⅰへの対応にも相当な格差が出ることは容易に想像がつきます。
また、各地域で対応を決めたとしても、最後は各学校で授業をすることになります。その際、専門性の高い先生がいる学校は大丈夫でしょうが、そうでない学校はどうなるでしょうか。学校間の格差も懸念されます。
ですので、公立の場合、その地域の子どもたちが誰一人として教科「情報」を学ぶ機会を失わないようにするには、地域一律で最低限の教育基盤を整備することが必須です。高校は公立でも「各学校ごとに決めてください」という方針が教委の中には根強いのですが、今回の件でそのような学校への丸投げの姿勢をとることは、格差拡大を黙認することと同じです。

⑥「情報」の共通テストを取りやめようとする動きが出てくる

このような難題が山積している中で、想定されるのは「情報」の共通テストを取りやめようとする残念な動きです。悲しいことにすでに一部でその動き出ています。

情報の授業がはじまってもう20年になり、学習指導要領改定は3回目です。世の中で情報活用能力が必要なことは火を見るよりも明らかで、受験実施までもまだ3年あります。いつまで待てば拙速と言えなくなるのでしょうか?
万一、共通テスト実施をヒヨって取りやめれば、情報Ⅰの授業実施もなぁなぁに終わると思います。問題を先送りにできた大人は胸をなでおろすでしょう。
しかし、2022年にもなって、日本の情報教育が停滞すれば、痛い目を見るのは大人ではありません。これからの時代に世界の中で生きていく、日本の子どもたちです。
日本は10年以上に渡って、学校のICT利活用レベルやITを使って作品をつくるレベルがOECDで最下位でした。これ以上、教育が停滞した場合、日本の子どもたちを格差の下側に張り付かせることになります。
3年後に共通テストをやると決めたことで、ようやく今、時計の針が動きつつあります。この動きを止めることは、子どもたちの未来と引き換えであることを、教育関係者は直視してほしいと思います。

教科「情報」のゴールは受験なのか?

最後に一つちゃぶ台返し的な話を。
共通テストへの採択を受けて、教科「情報」に注目が集まることは良いことですが、1点、忘れてはいけないことは、

「受験がゴールではない」

ということ。

高校の情報にしても、小中学校のプログラミング教育にしても、これからの社会(Society5.0)で子どもたち自身が幸せになれて、より良い社会を作っていけるようになるための資質や能力を持てることが目的です。
さらに言えば、人が本来持つ学ぶこと、創ること、分析することの「楽しさ」と出会える貴重な学習機会でなければならないと思います。最低でも情報を「学ぶ意義」を感じられなかったら、資質や能力もあったものではありません。
マーク式テストの対策だけするような授業では、テストの点数は上がっても、上記のようなもっと大事なことが失われる懸念があります。今後、情報の教育に関わる人達は学校内外関わらず、必修化や共通テスト化することの弊害に、自覚的である必要があります

全ての高校生が「情報」を学ぶ機会を全うできることが第一。その上で、進学する高校生は共通テストに臨める状態を作る。そして、情報教育の本質的な目的達成も目指す。一筋縄では行きませんが、だからこそ、関係者が力を合わせて取り組む価値があります。
2025年情報入試問題。ここから教育界の一大トピックになってきます。私達ライフイズテックも、各地の先生、学校、教委の皆さんと連携しながら、この難題に向き合って参ります。

最後にお願いと本気で思っていること

ここまでお読みくださった皆さんもぜひこの問題解決に向けて力を貸してください。この記事をシェアいただくところからでOKです。皆さんの周囲の方にこの問題の深刻さを伝えていただき、学校や教育委員会、そして国を動かしていくことが必要です。
今この教育問題を解決しないと、10年、20年と日本の子どもたちは世界から取り残されます。この3,4年が日本の情報教育、ひいては子どもたちの可能性を左右する分水嶺であり、勝負所です。また、情報教育以外でも、いろんな教育課題が今まさに動こうとしています。

教育の仕事をいつかしたいと思ってる方に投げかけたいのは、
「今、教育の仕事しないでいつやるんですか?」
ということ。

この勝負所の後に教育業界に入ってきても手遅れになっている可能性もあるわけで、日本の教育を良くしたい、困っている先生たちを支えたい、子どもたちの未来を良くしたいという思いをお持ちの皆さん、やるなら今です!
私達ライフイズテックも、本気でこの問題に取り組む仲間を募集しています。問題意識をともにできる方、お待ちしております。


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