憲法の学習書についての雑感

(2021年8月13日最終更新
2025年1月18日更新。)

法律書好きの学生[※現弁護士]が憲法の学習法について語りたいと思います。

とにかく憲法は判例が重要

まず、芦部をよm… と言ってもいいのですが、そうではなく、憲法は規定が抽象的であり、判例法を積み重ねることによって法の間隙を埋めるという側面がかなりの程度を占める科目なので、判例を読まずには何も始まらない科目です。そして、判例を読むにあたっては百選ではなく、判決原文を読むべきでしょう。百選もそれなりに纏まってますが、原文を読むのと読まないのでは見える世界が違います。ただし、時間の制約上、一審二審は読まなくて良いと思います。

百選に載っている全ての事案の判決全文を読む必要はないと思います。全文を読むべき判例の1つのメルクマールとしては、木下昌彦編集代表の『精読憲法判例』が挙げられます。このテキストに載っている判例は特に何回も読みたいところです。繰り返しますが、とにもかくにも憲法は判決文を読むことだと思います。

で、基本書は?と聞かれそうですが、憲法においては判例を精読することが"基本"であり(ただし、判例評釈を読むことを含む)、したがって、最高裁の出した重要判例のテクストが憲法の"基本書"だと思います。

以上、論文対策としては、あるいは一般的な憲法学習の最良の勉強法は判例の精読(繰り返しますが、憲法判例の精読は判例評釈の精読を含みます)ということでした。

 基本書は短答試験において必要です。短答式試験においては、統治分野では学説が当然に問題になりますし、人権分野に於いてもしばしば学説について聞かれるので、芦部憲法や、芦部が合わないなら野中・高橋・高見・中村のいわゆる四人組(私はこの本が結構好き)などの好きな本を読めばいいと思います(四人組の他には、長谷部恭男、高橋和之、渋谷秀樹、憲法学読本、リークエなど)。ただ、芦部に書いてあることが、学生の持つべき知識としてのベースラインであると言っても過言ではないし、高橋和之教授の補訂を加えられながら今日まで生き残っている名著ですから、芦部を読むのが基本線です。

論文対策として特定の基本書や小山作法などの憲法訴訟の本を読む必要性はそれほど大きくないと思います。

その他、憲法学習書についての雑談

・清宮四郎、憲法I / 宮沢俊義、憲法II
 憲法の議論の文脈の把握に大いに役に立つでしょう。


・長谷部恭男、interactive憲法/続・interactive憲法
 読み物として面白いし、統治分野の議論に興味が持てるようになる(かもしれない)。興味が深まることは知識が深まることほぼ同義と言ってもよく、興味を深める勉強はただ知識をつける勉強よりも有効なことが多いと思う(ただし、試験直前期を除く)。 あと、同著者の論文を詰め合わせたものは大体面白い、『憲法の円環』や『憲法の理性』等。切り札としての人権や公共の福祉に関する論文は必読だと思います(『憲法の理性』に入ってます)。これを読むと一元的外在制約説の論証パターンを書くのがなぜ推奨されないか理解できると思いますし、切り札としての人権という厨二心をくすぐるネーミングの概念の魅力を理解できます。

・石川健治ほか編、憲法訴訟の十字路
ドイツ流違憲審査論派の学者とアメリカ流違憲審査論派学者がそれぞれの立場から書いた憲法訴訟論についての論文集。巻末に編者である石川健治・山本龍彦・泉徳治の対談がついていて、これもなかなか面白い。最新の憲法訴訟の議論を追えてちょっと賢くなった気分になれる。

これは学生向けではない論文集だが、学習用の教科書に書かれてること以外に学者がどういう議論をしてるかを知ることは、その議論を理解するかどうかと関係なしに大事だと思う。さっき言ったように見える景色が変わります。石川先生の文章は上手くて面白いので、石川先生の論文だけでも読めば興味が深まると思います。


・小山剛、憲法上の権利の作法 
 これは受験生の間で定番化してるような気がしますが、別に読まなくていいということを指摘するために挙げました。違憲審査論をドグマーティッシュに把握するために三段階審査という思考ツールの導入が試みられていますが、受験生はあんまり憲法論についてドグマーティッシュに考えすぎると変なことになると思うので、こういう本を読むよりは、判例(及び判例評釈)を読んだ方がいいと思います。持ってる人は多いと思いますが、お守りになってるだけでちゃんと読んでる受験生は多くないと思います。同様の理由で渡辺・宍戸・松本・工藤の憲法Iいわゆる新四人組も推奨されるほど読む必要はないと思います。


・野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』2版
法学教室の連載を単行本化したもの。書名に「基本判例」とあるように憲法の超重要判例を1つずつ結構なページ数を割いて解説している。著者の野坂先生(学習院大学教授)は司法試験委員を長くやっておられる方なので、司法試験にも向いていると言える。ただし、シェアはそこまで高くない。

・横大道聡編、憲法判例の射程 
 最近2版が出たそうですね。受験生に結構人気があるらしいですが、多分ちゃんと読んでる人は多くないと思います。読みたいところだけ読めばいいと思います。「射程」という題ですが、受験生が想像するような判例の射程を詳しく論じているかと言われればそうでもないと思ったりもする(答案でもあまり「あの判例の射程が〜」などとこれ見よがしに言うのはまずいと思います)。むしろ後述の憲法論点教室の判例解説版、と言うほうが適切な気がします。


・曽我部ほか、憲法論点教室
 最近、第2版が出ました。合格者などから推奨されることの多い本ですが、彼らが推すほどは読まなくていいと思います。

・合格思考憲法 改訂版
辰巳法律研究所から出た比較的最近の合格者が書いた試験対策用の憲法。理論面の説明はあまり充実していませんが、試験対策という観点からは良いです。受験生の相場感や答案を書くときの思考回路がわかります。


・宍戸常寿、憲法解釈の応用と展開 
 宍戸先生(東京大学教授)の法学セミナーの連載をハイコンテキストな文章であまり読み易くないので、宍戸先生が好きな人は読めばいいと思います。脚注での文献紹介が良いです。あと宍戸先生は現司法試験委員です。しかし、試験的にはそこまで優先度は高くないです。


・木村草太、憲法の急所 
木村先生が書いた憲法訴訟論の総論部分(前半)と事例問題とその解説が書かれている本です。 前半部分の総論部分はドグマーティッシュで魅力的ですが、やや説明に独自色があり(全適用例審査など)混乱する受験生が少なくないと思うので迂闊に手を出さない方が良いと思います。。後半部分の事例問題の事例は面白く完成度が高いと思います。

・宍戸常寿編、憲法演習ノート 
 最近2版が出ましたね。初版しか持ってませんが、演習書としても読み物としても面白いし、学者の先生が書いた答案が載ってるのもウリですね(ただ、ホンマカイナな答案があった気がしなくもない)。


・小山・畑尻・土田、判例から考える憲法 
 パラパラ読んだだけですが、前掲の憲法演習ノートの方が面白いと思います。

・奥平・憲法III 
 名著らしいので図書館で借りてきました。読んだら更新します。

・論点探究憲法 2版
 読んでないけど面白そう。メルカリでちょっと安かったから一応買いました。


・駒村・憲法訴訟の現代的転回
ちゃんと読んでませんが、脚注等で割と色んなところに登場する文献です。違憲審査基準論で書かれていないので、試験的にはどこまで役に立つかは未知数です。

面白い本を見つけたら加えときます。


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