書評「ブラックショーマンと名もなき町の殺人」 ★4
東野圭吾といえば、言わずもがな日本最高のミステリ作家の一人である。
彼の作品といえば、
「容疑者Xの献身」で有名な探偵ガリレオシリーズに始まり、
「新参者」や「白鳥とコウモリ」など、
いずれも話題作がずらりと並ぶ。
作品はベストセラーとなるばかりか、
豪華俳優をキャスティングした映画化でもいつも話題となる。
かくいう私も、昔からのファンの一人である。
本書「ブラックショーマンと名もなき町の殺人」
舞台は2020年、コロナ禍のさびれた観光地。
観光客は激減し、飲食店や宿泊業はギリギリの状態のさなか、
町民はなんとか町おこしをしようと翻弄する。
そんな中で、殺人事件は起きた。
殺害されたのは元教員の男性。
生徒から慕われる堅実な人間であった。
なぜ、殺されなければならなかったのか、犯人は誰なのか、
殺してまでして犯人が秘密にしなければいけなかったものとは。
ーーー
本書の面白いところは、小さな町で起きた殺人事件を
被害者の娘と弟がバディを組み事件解決を進めていくことだ。
そして、その弟はかつてアメリカでも活躍したほどの、
凄腕マジシャンなのであった。
仕草、言葉遣い、推理力、、どれをとっても巧みに描写されており、
読み進めていく中でまるで自分がマジシャンにでもなったような感覚で、
爽快な気分が味わえる。
そして彼の性格が意地汚いところもまた魅力的であった。
そんなマジジャンに翻弄される娘にも注目していただきたい。
父親を殺害された娘はそう呟く。
さて、なぜ今回本書を読もうと思ったのかだが、
本書は2025年に映画が公開される。
撮影するにあたり、殺人事件の舞台である「さびれた観光地」は
岐阜県にある「郡上八幡」という町で撮影されたのだ。
何を隠そう、僕の生まれ育った町である。
さびれた観光地。
その舞台に僕の故郷が選ばれる。
、、、っつ、、、ぐっ、、、素晴らしいことではないか。
被害者の弟でありマジシャンの役は福山雅治、
父親を殺害された娘役は有村架純が演じる。
撮影の間中、町中の住民は2人のスターを一目見ようと試みたらしい。
遠くから撮影を試みたであろうピンボケした写真が僕にも回ってきた。
まあ、田舎とはそういうものである。
福山雅治も思ったことだろう。
「確かにさびれている。実に面白い。」とね。
ー 遡ること4年前
大学3生だった僕はプレゼンテーションを学ぶ講義を取っていた。
講師はマジシャンだった。
なんでも、2009年には英国で開催された「マジックコンベンション」で、
日本人初の欧州チャンピオンに輝いたことのある実績の持ち主だという。
期待は高まる。
授業の初日、プロとはこういうものかと思い知らされた。
あっという間に、コインを消したかと思えば、
どこからともなく出現させる。
生徒から借りたペンをさっと消してしまい、
引いたトランプはピタリと当ててみせる。
すべてが完璧であった。
そこらの宴会で披露されるものとは次元が違う。
あれは、魔法だ。
ありえない。
マジシャン曰く、いわゆる視覚コントロールらしい。
観客をどこに着目させるか、どう視点を誘導させるか。
そしてこれがプレゼンテーションでも大切になるという。
それからの授業というのは、プレゼンはそっちのけで
ひたすらマジックにいそしむものであった。
隣同士ペアになってはコインを増やし、
トランプを当て、ペンを消すのを練習し合った。
大盛況で全8回の講義は終了した。
(僕の成績は「良」だった)
そして、
後日、とあるニュースを見た。
そのマジシャン講師が女子高生盗撮により捕まったというものだった。
不思議だ。
あれほど華麗なトリックをみせたマジシャンならば、
女子高生のスカートの中を誰にもバレず盗撮する
なんてことは朝飯前ではないのか。
タネも仕掛けも用意しなかったのだろうか。
ーーー
本書に登場する福山雅治演じるマジシャンは、華麗である。
警察官の重要な情報をさっと盗んだかと思えば、
言葉巧みに容疑者から情報を引き出す。
そして、独自に事件解決を進めていくのだ。
読んでいて非常に気持ちがいい。
そして2020年が題材の本書では、
何度もコロナ禍を象徴するシーンが登場する。
リモートワークにリモート葬儀、マスク、そして町の閑散化。
現実でも、コロナ禍で景気が落ち込んだニュースは今なお絶えない。
こんな弱気なセリフが登場人物からもこぼれ出る。
さて、僕の故郷、郡上八幡よ。
映画の中のさびれた観光地に選ばれたからといって
浮かれている場合ではないぞ。
決して他人事ではないのだ。
『ブラックショーマンと名もなき町の殺人』
郡上八幡出身の方には、特に読んでいただきたい作品である。
まさに、この映画化は1つの町おこしのきっかけになるものだろう。
殺人事件が起きなければいいが。