【理想の三線探偵団03】 三線チーガの真実。人工皮に驚きの事実が!
さてみなさんこんにちは
前回までは、棹の寸法にこだわりながら、理想の三線探しの旅を続けてきました。今回はいよいよ胴部分です。
近年、三線屋さんのほうでも、胴の張りを細かくオーダーで選べるようになったり、演奏者のほうでも、好みをはっきり示すようになってきた傾向があるようですね。
一般論として、わたしも聞きかじりですが、
◆ 古典は張りを強めのほうが好まれる
◆ 民謡は古典より張りが弱いほうが好まれる
なんてことをイメージしたりしています。
それから、基本的に同型の楽器を用いる奄美三線の世界では
◆ 人工皮のキンキンに張った皮の音が適している
という話もちらほら。
それでいながら、多くのサイトでは
◆ 人工皮の音は悪い。やはり本皮のほうがいい。
みたいなことも書いてあって、多くの方は実際のところ
戸惑っている
面もあるのではないか、と思います。
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まずは余談がてら「うんちく」のお話から。
沖縄の音楽を基本に三線を弾いておられる人は、知識としての奄美三線についてざっくりと知っていることもあると思いますが、私は奄美出身の方と一時期レッスンをしていましたので、現地の三線についても実情をお聞きする機会がありました。
実はあちらの奄美民謡の教本というのは、少し前まで、ほぼ一種類しか出版されておらず、沖縄にくらべてはるかに狭い世界です。(それも、元祖はワープロで打ったような自費出版に近いものでした)
さて、そうした知見の中で、左大文字がズバリ
「奄美三線とは何か」
ということをわかりやすく示すならば、それは
”本州の三味線音楽を、沖縄の三線で弾くものである”
と定義することができると思います。
ちょっと暴論めいていますが、ざっくりの理解は、そういうイメージで捉えると、納得いくことが多いです。
奄美は、沖縄圏でありながら、かつ本州の薩摩藩支配下です。そして、琉球王国ではなく、どちらかと言えば早期から薩摩地域の影響を受けています。
(NHK大河ドラマの西郷どんでも、龍郷のことなどが出ていましたね)
ですから、その音楽性は、沖縄民謡のテイストを持ちつつも、軸足はどちらかと言うと「本州の三味線音楽」に偏っています。
奄美民謡を聞くと、沖縄音階ではない部分がたくさん出てくるのはそのせいです。
そのため、奄美三線は楽器の形態こそ「サンシン」ですが、弾きたい、弾こうとしている楽曲は本州の三味線音楽に近くなるのですね。
だから、皮はパンパンに張って本州の猫皮のサウンドに模してゆこうとするし、弦は細く、本州のそれと同じように、卵黄で黄色に塗ってあるのです。(今の弦は着色です)
チューニングも、CFCやBEBが沖縄三線だとすれば、
奄美はGCG
でハイキーです。キンキン音を最初から出そうとしていることがわかりますね。
それなら、奄美ではふつうの三味線を弾けばいいじゃないか、ということになるのですが、文化的には海外→沖縄→堺→本州三味線という流れで発展したため、残念ながら文化の逆流は起きず、あくまでも身近な「沖縄三線」を流用する方向へ進んだのだと思われます。
薩摩地方でも、「ゴッタン」という木製三味線が発展しました。それだけ都の中央とは離れていて、通常の三味線が逆流しなかったということなのかもしれません。
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まあ、それくらい奄美ではおなじチーガでも「キンキン・パンパン」が好まれており、むしろ人工皮が理想のサウンドを叩き出せるということで、人気なのだそうです。
そういう流れで、今回の記事は「人工皮」に注目しますが、ここで実験をしてみましょう。
今から5棹の三線の音を聞いていただきます。この中には
◆ 二重張り 良品
◆ 二重張り 微妙
◆ 人工皮 特A(特上)
◆ 人工皮 最下級
が含まれています。4種類の皮で、5棹あるのがミソです。
さあ、耳に自信のある方は、ぜひ聞き分けて5つの棹の素性を当ててください!
ちなみに余談ですが、人工皮特Aは三線界でも定評がある皮で、
かの登川誠仁さんが、持っている棹にも張られていますね。
(ライブ!~ゆんたくと唄遊び~ 登川誠仁&知名定男 2019)
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この5棹。聴きわけ問題としては、簡単なものも含まれていますが、とても難問もあります。
さあ、みなさんの回答はどうなったでしょうか?
A 人工皮 特A・人工皮 下級・二重張り 上・二重張り 下
B 人工皮 特A・人工皮 下級・二重張り 上・二重張り 下
C 人工皮 特A・人工皮 下級・二重張り 上・二重張り 下
D 人工皮 特A・人工皮 下級・二重張り 上・二重張り 下
E 人工皮 特A・人工皮 下級・二重張り 上・二重張り 下
の選択肢があるということです。各自丸をつけてみてください。
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<回答>
A 人工皮下
B 人工皮下
C 人工皮 特上
D 二重張り 下
E 二重張り 上
です。
◆ 比較的簡単に聞き分けられるのはDでしょう。これだけ音がこもり気味で、いわゆる三線業界で言うところの「抜けが悪い」音だからです。
◆ 慣れた人であれば、Eも二重張りとわかります。充分に抜けがいい音がしていますが、人工皮特有のカシャカシャ音が少なく、変にまとまりがあるというか、「ああ、皮かぶってるな(笑)」という音がしているからです。
◆ 問題はABCです。これを人工皮と評価したとしても、どれが「特上ランク」でどれが「最下級」かわからないと思います。
ABよりCがややすっきりした音ですが、ABは低音というかパンチ力があります。ABが野武士のような音だとすれば、Cは力強さが足りないという評価をする人もいるでしょう。
実は、特A(特上)の人工皮と最下級の人工皮の間には数千円の価格差があります。そして、厚みも異なり、特Aのほうが厚みがありしっかりしています。
そして今回の棹は、Cが一番パンパンに強く張られています。そうした違いが音に「現れておらず、均一化されてしまっている」のが人工皮の良いところであり、限界なのです。
つまり、
でも解説しましたが、実際に人工皮にはランクにいろいろと差があるのに、
「音に関しては、ほとんど違いが判別できないくらい」
であることが今回判明したわけです!!
上の記事でも、私はBランクの最下級皮のことを
「意外にいい」「悪くない」
と評価していますが、みなさんも音を聞けば納得していただけることでしょう。
むしろ、本皮や二重張りは、本当に皮との相性で音幅がぶれることが理解できたと思います。
これは、悪い言い方をすれば
「当たりハズレは、完成するまでわからない」ということです。
そこで、今回の理想の三線へのまとめです。
「人工皮を使うなら、ぶっちゃけなんでもいい。安いのでOK。高くても音に違いはないから」
ということがわかりました。
(つづく)
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