カレーうどん
「服が汚れるからよしなよ」
連れ合いが言葉とは裏腹に笑みを浮かべて忠告してくれる。
どうしてか昔から白いTシャツを着ている時ほど服が汚れるものを食べたくなる。喫茶店のナポリタン、イタリアンでのワイン、洋食屋のハンバーグ、そしてなんと言っても蕎麦屋での『カレーうどん』。
ふと休みの日に知らない街で気取らない地元の蕎麦屋といった風体の蕎麦屋を見つけると入ってみたくなる。
だいたい店構えがしっかりしているところは春なら旬菜蕎麦、夏ならおろし蕎麦、秋なら山菜蕎麦、冬なら鍋焼きうどん、といった定番がありカレーうどんというものは邪道であったりする。けれど、この邪道はある意味定番化していて子供が親と分け合ったり、ボリュームが足りないと思う男性層から支持を得ていてメニューの端にひっそりと書かれている。
きっとそう思うのは私が子供の頃「服が汚れるからカレーうどんは良しなさい」と母に言われてきたからだ。
高速道路のサービスエリアやデパートのフードコートで隣のテーブルの子供が真っ白なTシャツを汚しながらカレーうどんを食べ、甘ったるいバヤリースのオレンジジュースを飲んでいるのを口の中の唾を飲み込みながら眺めていたあの頃を思い出すからなのだ。
旅先や知らない街をふらふら歩き、カレーうどんを見つけるたびに「今食べなければいつまでも食べられない」と天ぷら蕎麦などの豪華なメニューと何度も見比べながら結局はカレーうどんを頼んでしまう。
けれど、小心者の私はカレーうどんを美味しく食べながらも一度も服を汚したことがない。汚しながら食べる背徳感が最高のスパイスであるにも関わらず、子供の頃から変わらずに服を汚さずに食べられるから今食べてもいいのだと自分を納得させている。
習慣とは恐ろしいもので、誰に非難されるわけでもないのに自分の中の言いつけに従って行動してしまう。
でもいつかは思いっきりカレーうどんを啜って服を汚しながら食べてみたい。きっとそれができたら、何かの機会に失敗した人、だらしなかったりする自分を少しは許せるようなそんな気がするのだ。
2024/09/21
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