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#150 怒りの根源は何だったのか?

 明和地所が相模国分寺跡南側隣接地に高層マンションを建設する計画を発表した際、多くの人が驚き、哀しみ、様々な怒りを持った。
 ◆相模国分寺跡の広々とした景観が悪くなる。
 ◆明和地所に歴史遺産を守る観点がない。
 ◆明和地所は歴史的認識をもっていない。
 ◆海老名駅周辺に高層マンションが林立している。それなのにまだ建てるのか。よりによって、何故ここに?
 ◆狭い道路しかないのに、安全に大型建築物を建てることは困難。
 ◆隣接する既存の住宅の境界線まで90センチと狭い。非人間的。
 ◆これを許したら次々に高層マンションが建設される危惧がある。
 ◆市民が集う場所でもある相模国分寺跡に大きな影を落とすことになる。
 ◆一握りの人間の利益のための、このような事業を許してよいのか。
 
 明和地所が開催した建設説明会では多くの怒りが表明され、この問題は自治会や日常生活での話題となった。
 私は、上記の怒りを共有しながら、果たしてこれらの怒りの根源は何なのだろうと長らく考えていた。

 昨年、フランスのコンクに行く機会を得た。
 コンクは世界遺産サント・フォア教会を中心に、中世の人々の信仰から生まれた豊かな歴史的建築物が残る村だ。石畳の小路に沿って建ち並ぶ古い家々は、中世の終わりから変わらぬ統一的で優しい町並みを形成している。すべての建物は、銀色に輝く「シスト」と呼ばれる石板の屋根の下で、受け継がれる歴史の物語の続きを語り続けているとガイドブックに書いてある。
 そう広くはない村を私は一通り歩き、巡礼路も少し歩いてみた。路傍に咲き誇る薔薇の花を楽しみながら、まるでおとぎ話に出てくるような家並みの小路を歩いた。そして、気に留まった風景の絵を描き、話し掛けてくる人々と会話をした。
 そのような時を過ごしていて私は感じた。
 昔ながらの素朴な景観を失うことなく、美しさに抱かれながら暮らすことが、この村人たちの誇りなのだと。それが、一人ひとりの心の豊かさに結びついているのだと。

 あのとき、明和地所は人々の誇り、そして尊厳を踏みにじったのだ。
 だから人々は怒りをもった。怒りは様々な形で表現されたわけだが、怒りの根源は「人としての尊厳」ではなかったのか。

 尊厳。
 尊く、厳かで、犯してはならないこと。
 心の豊かさと町づくり。
 大きなテーマだが、個人レベルとして今後も考えてゆきたい。



 

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