【相続・交通事故】人身傷害保険金の死亡保険金は相続財産に含まれるか?
1 人身傷害保険とは
チューリッヒ保険のホームページでは、人身傷害保険について、次のように定義付けられています。
ごく大雑把に言うと、自身の過失割合に関係なく、自分が加入している任意保険会社から、自身が被った損害の内容に応じて保険金を支払ってもらうことができる保険です。
なお、自動車保険への加入を検討している方で、人身傷害保険特約を付すか迷っている方がいらっしゃれば、個人的には必ず付した方が良いと思います。
詳細は、以下のホームページなどで解説されています。
2 何が問題になっているのか
本稿は、「人身傷害保険金の死亡保険金は相続財産に含まれるか?」というタイトルですが、そもそも何が問題なのか、よくわからないという方がたくさんいらっしゃるかもしれません。
人が亡くなり、遺産分割協議をしようとすると、①相続人の範囲の確定、②遺産の範囲、③遺産の評価、④具体的相続分の算定、⑤遺産の分割方法について話し合わなければなりません。
遺産のうち、遺産分割協議時に存在する財産は、原則として遺産分割の対象となりますが、遺産分割の対象とはならない(=相続財産に含まれない)遺産もあります。
例えば、生命保険金は、①特定の人が保険金受取人に指定されていた場合や、②保険金受取人を単に「相続人」としていた場合、③保険契約者が保険金受取人を指定していないが、生命保険約款中に「指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う」との条項があった場合などは、生命保険金は保険金受取人の固有の権利であり、相続財産に属さない、と解されています。
もっとも、被相続人が自分自身を保険金受取人に指定していた場合には、相続財産に含まれると解されています。
このように多くの場合、生命保険金は、相続財産に含まれません。
では、人身傷害保険金の死亡保険金は、生命保険同様、相続財産には含まれないのでしょうか、それとも死亡事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権のように、相続財産に含まれるのでしょうか。
これが、本稿で取り扱おうとしているテーマです。
3 検討:人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まれるか
⑴ 人身傷害保険を損害保険と傷害保険のどちらの性質を重視するか
人身傷害保険は、事故により生じた損害を填補する保険であるため、損害保険の性質を持っています。
損害保険としての性格を重視すると、加害者に対する損害賠償請求権のように、相続財産に含まれる、という解釈に近づきます(この説明が厳密に正しいかは不明ですが、理解しやすいように思います。)。
他方、傷害保険、すなわち、生命保険のような定額保険の一種である、という性格を重視すると、相続財産に含まれない、という解釈に近づきます。
⑵ 保険法改正前の裁判例
この問題を取り扱った裁判例として、盛岡地裁平成21年1月30日判決や東京地裁平成27年2月10日判決があります。
これらの裁判例は、いずれも、人身傷害保険の死亡保険金の請求権は、法定相続人の固有財産に帰属する(=相続財産に含まれない)と判断しています。
従前、保険実務上、このような下級審の裁判例も踏まえてか、人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まない、という解釈で運用する保険会社が多かったようです。
⑶ 保険法の改正
上記裁判例の事案は、旧商法が適用される保険に関する裁判例ですが、その後、保険法が施行されました。
保険法下でも、人身傷害保険の死亡保険金が相続財産に含まれないと解釈してよいのかは、改めて検討の余地があるようです。
保険法は、保険契約を4つのカテゴリーに分類しましたが、人身傷害保険は、「傷害疾病損害保険」というカテゴリーに含まれると解されています。
このように、人身傷害保険は損害保険の一類型と解釈されるため、保険法下では、人身傷害保険金は相続財産に含まれると解釈される可能性が高いと考えられています。
先日、私が某損害保険会社の方とお話しした際も、その保険会社では、保険法下では、人身傷害保険金は相続財産に含まれるという前提で運用しているようでした。
ただし、保険法施行後の保険契約について、この点に関する判断を行った裁判例はまだないようですので、裁判所の判断が待たれます。
※その後、高裁判例が有ることを知りましたので、次の記事で解説しました。
4 事例への回答
人身傷害保険の死亡保険金が相続財産に含まれるとすると、この保険金請求権は、遺贈によりZさんが取得することになります。
そのため、Y社としては、Zさんに対して人身傷害保険金を支払う、ということになります。
今回の記事は以上です。
割と複雑な内容を取り上げてしまいましたが、ご理解いただけたでしょうか。
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