隣の芝生が青ければ、ウチには赤い花を咲かせましょう~交付税ミクロの話~
こんにちわ。些の件です。
交付税って、とにかく説明が難しい。役場歴15年、その中で財政部局も経験して、地方財政の研修も受けている私も、全てを理解していると言い切れないし、経済や様々な情勢を鑑みてアップデートを繰り返しているので、何年も離れると、すぐについていけなくなります。
今は”トップランナー方式”って何?って感じです。
そんな私が、交付税を論じるのもおこがましい。だから住民として、みんなで交付税制度もしっかり学んで地域振興を図っていきましょうとも思わないんです。
私が15年役場にいても、完全に身に付けることのできなかった、交付税や自治体財政に関することを、一般の地域住民みんなで理解するための勉強会開催しますか?時間も掛かればお金も掛かりそうです。一般住民レベルでの理解が深まったころには、その地域が消滅しているかもしれません。
近隣や先進自治体と競い合っていても、マクロの自治体財政は何もよくならないって事を前回お話させてもらいました。
ミクロの自治体財政も、ほぼ同じです。税収が限られていることに変わりはありません。
公務員には、予算獲得することにステータスを感じている公務員が、未だに現存します。”予算獲得するための仕事”にも人件費が掛かるので税金が使われます。”獲得した予算(税金)を執行する仕事”これも多ければ多いほど税金を使います。
交付税制度からみると、自治体の仕事量が人口規模や面積など、各自治体どれくらいの人員が必要で、その自治体の必要な職員給与の額がいくらになるのか(財政需要額)っていうのが計算されて、交付されています。
職員給与費だけではありません。消耗品や公共施設の光熱水費などありとあらゆる自治体の経費を交付税の財政需要額では試算(算定)されています。
地域振興のような自治体独自に取り組むような経費も、算定されています。
でも、どこの全国95%の交付団体のうち、財政足りているって自治体はほぼほぼないと思います。
なぜ足りなくなるのか。
交付税は補助金と違って、使い方は自治体独自(当然、地方財政法とか一定の法律やルールには従いますが)の裁量で、その使途は決められます。
だから、交付税で算定されている通りに執行する必要はありません。戸籍の窓口など絶対にやらないといけないものも当然ありますが、交付税では図書館の維持管理費が算定されているからといって、自治体に必ず図書館を設ける必要はありません。住民からの寄贈図書だけの図書館で新しい書籍購入しなかったからといって交付税が減らされるわけではありません。
したがって、交付税算定より低い額で合理的に行政サービスを行えば自治体財政に余裕ができるはずです。
でも、足りないんです。
地方にいけば、図書館がない、プールがない小規模自治体は沢山あります。そうやって、財政切り詰めても足りません。
仮に、プールのない自治体が、隣町のプールのある自治体に負担金を支払って、住民が安くプール使えるようにしています。夏休みだけスクールバスで小中学生を無料で送迎しています。それらの経費入れても、交付税算定額より500万円財政的な余裕ができているとします。
その500万円は、どこに行くのか。
そもそも、交付税の個別算定額を使って、自治体が財政運営していないので、わが町はプールがないから交付税からの財源○○○万円余裕ありますと試算しているような自治体は、ほぼないので、この500万円は、わが町で今推進している特産品販売の支援に使いますっていう意図を持ったような使い方はされていません。
その自治体のどこかの、交付税算定されいる以上に支出している予算に使われているという説明の仕方しかできないかなと思います。
それが、例えば公園を他の自治体より力入れていたら、公園の清掃回数などを増やす予算に入っているかもしれないし、花などの植栽費になっているかもしれません。
結果、毎年わが町のプールという行政サービスを住民にガマンしてもらう事で、500万円くらい財政的余裕ができても、他の行政サービスの恒常的な経費に充ててしまっているので、予算に余裕なんてできません。
これを、プールのない町Aとプールのある町B2つの隣接する町があったとします。A町は近くにプールがない生活ですが、その分公園管理に力を入れる事ができて、花の季節になると県外からも多くのお客さんが来て、地域の飲食店や道の駅も賑わいます。B町は、人口減少していく中で利用者数が伸び悩み利用料金収入が減少傾向ではありますが、A町から負担金収入があり、利用者数も確保しているので、施設の利用料金や営業時間の見直しなども行わずに、安定して行政サービスを提供し続けられています。指導者を誘致して、水泳競技にも力を入れており、このプールからオリンピック選手が生まれる事を地域一丸となって願っています。年に1回は、県レベルの大会も開催され出場者や応援の家族などで、地域に賑わいもできています。
A町は公園利用者が多く、そこから地域への経済波及効果も生んでいます。B町はプールと水泳競技で地域に賑わいを生んでいます。
私のイメージする地域が活性化されている状態とは、こんな感じです。
でも、各自治体でも、まちづくりや、住民参加でワークショップやったり、住民要望募ったりすると、A町の住民からは、隣町までプール通うのは不便だ、わが町にもプールがあれば競技会開催などで更に地域が盛り上がると、プール建設待望論が出てくる。B町でも、大きい公園作って花植えして観光客呼び込もうって声が出てくる。
こういった、”隣の芝生が青い”現象は、各地方のあるあるかと思います。小規模自治体ですから、全ての公共施設が全て最新で揃っているわけはありません。類似するような民間サービスもありません。生活を豊かにするっていう事では、プール建設要望も公園整備要望も、住民の権利として間違ったことではありません。
ただ、もしA町がプール整備したとしたら、建設費用は補助金や起債で捻出できるかもしれませんが、維持管理経費の財源はありません。交付税では算定されていますが、既に公園の植栽事業などに使われています。とりあえずB町への負担金支払いはやめます。それでも足りないのですが、建てちゃったプールは維持管理していかなければいけないので、絶対にその維持管理経費捻出しないといけません。花の植栽は数減らしたり、安い苗にしたりで経費削減できます。子ども達は、いい指導者がいるから、利用料が高くなっても隣町まで通い、スクールバスも出してくれないので、住民の家計費や送り迎えの負担が高くなります。A町プールの利用の大半は、通うのが大変だという声の強かった高齢者です。利用料金高齢者割引で、利用料金があまり取れず、更に数年後には利用者どんどん減っていきます。プールに関係する若い人材が居ないので、競技会などの誘致もできません。
B町も、A町からの利用者が減ったことと、A町からの負担金がなくなったので、維持管理運営が厳しくなってきました。プール以外のまちおこしが必要だという事になり、A町に既に来ている観光客をB町にも引っ張り込もうと公園を改修して花の植栽スペースと、駐車場や物販コーナーを設けました。役場の中にガーデニングが好きな職員がいたので、管理の担当を任せました。一般家庭の庭とスケールが違うので、うまくいきません。結果、都市部の造園会社に毎年、委託料を支払って植栽も管理もしてもらうことになりました。プールの収入が減り、公園管理費が増加し、財政はより厳しくなりました。
これと似たようなこと、皆さんの自治体で起こってませんか?
近隣自治体や先進自治体の”良い部分”だけを見れば、とても青く見えるのはわかりますが、限りある自治体財源の中ではアレもコレもは無理です。
地方交付税の複雑な中身を理解する必要はないと思います。補助金とは違います。全国を画一化するための財源ではありません。自治体の裁量権が強い財源です。これだけわかっていれば、充分じゃないですかね。
隣の芝生が青くても、自分の庭に同じ芝を植えるリスクは、各地方それぞれ慎重に検討した方がいいと思います。その芝が良いのか悪いのかというのも大事ですが、既に自分の庭に植えている花はどんな状況なのか検討する方がもっと重要だと思います。