ウェブマーケティングではなく、ウェブブランディングと言う理由
私は、2015年に「経営者のためのウェブブランディングの教科書」という書籍を執筆しました。
それから10年経ったわけですが、ありがたいことに、いまだに拙著を読んでくださった方から、時々連絡をいただくことがあります。
2004年に会社を辞め、フリーランスのWebデザイナーとして独立し、2007年に法人化してから現在に至るまで、私は中小企業やスモールビジネスの経営者と直接仕事をすることにこだわり、「比較的規模の小さめなコーポレートサイト」の制作を数多く手掛けてきました。
その経験から、コーポレートサイトは、経営者を助けることができる最強のツールであることを確信し、試行錯誤を重ねてきた中小企業向けのコーポレートサイトの企画戦略および制作のアプローチ方法をなんとか体系化できないかと考え、コンパクトな一冊にまとめたのがこの本です。
書籍の内容はある程度、書き始める前から自分の中にイメージがあったのと、実際に私が現場で積み重ねてきたノウハウをまとめる作業でしたので、わりとスムーズに筆が進みましたが、タイトルについては最後まで迷いました。結果として、「経営者のためのウェブブランディング」という言葉を使うことで、出版社からもGOサインを取り付けました。
なぜウェブマーケティングではなく、ウェブブランディングなのか。
時々いただく質問ですが、「ウェブブランディング」という主張こそが、私の仕事人としてのアイデンティティとも言える部分なのかもしれません。
マーケティングとブランディングの違い
まず、「マーケティング」と「ブランディング」は、どちらもビジネスを成功に導く方法論であり、隣接している概念でもあります。
解釈がそれぞれの専門家ごとに異なりますが、このnoteでは学術的な定義ではなく、あくまでも以下のようにおおらかに定義しておきたいと思います。
マーケティング:売上や利益を上げることに意識の力点を置いた活動
ブランディング:会社や商品やサービスの魅力を表現したり伝えることに意識の力点を置いた活動
以下の記事でもマーケティングとブランディングの違いと、状況ごとにどう使い分けていくべきかの考えを整理して紹介しています。
マーケティングに吸収されていくウェブ制作
ウェブサイトは、もちろんマーケティングツールのひとつとして大変有効であり、ウェブサイトを起点とした集客方法である「Webマーケティング」という言葉は、わりと一般的に普及しています。
「検索」による情報収集は、私たち生活者にも深く根付いており、インターネット上の情報から、購買するものの選択や意思を決めるということが当たり前の時代となりました。
また、インターネット広告、SEO等の技術の発展により、ビジネス側もこれらを駆使した集客方法を取り入れていくことが進んで、Webマーケティング市場は、加速度的に大きくなっていきました。
さらに、アクセス解析ツールなどの普及も相まって、ウェブサイトへの訪問者数などが可視化され、その定量情報をビジネスオーナー側に提供し、Webマーケティングの予算を獲得していくという、マーケティング会社のビジネスモデルが確立されました。
広告の費用対効果をパシッと見える化した、という点で、非常に強い説得力を持って、Webマーケティングはビジネスの主流の座を射止めていったというのが実際ではないでしょうか。
ウェブ制作の一部は、この流れに乗り、「マーケティング」の配下に属するような形にシフトしていきました。
現在のウェブ制作は、「ランディングページ(LP)」に代表されるような、広告やマーケティング全般の着地ツール的な、集客を目的としたウェブサイトの制作方法を研究開発している面も強くなっています。
ウェブサイトの目的と制作会社の役割について
一方で、ビジネスオーナーがウェブを活用し、サイトを作成公開したい理由(目的)は、マーケティング目的に限らず、実は様々です。私がこれまでお付き合いしてきた取引先のウェブサイトの目的には、主に以下のような理由がありました。
新規顧客を獲得したい(集客)
人材を募集したい(採用)
会社のイメージをよくしたい(イメージ向上・見え方)
現在のサイトが使いにくい(システムや情報の改善)
目的を整理していくと、上記の4つほどに分類できると思いますが、私の感覚では、それぞれの会社ごとに、ウェブサイトを作成したり、リニューアルしたい理由は、全くと言っていいほど異なる印象があります。
ウェブサイトをマーケティングツールとして考えているビジネスオーナーも当然いますが、ウェブによるマーケティング強化は求めておらず、その他の目的を主としている場合も多い印象があります。
あるいは、「よくわからないけど、ウェブサイトはなんとなく必要と思っている」というビジネスオーナーもかなり多いです。
さらに、ウェブの目的は、実際にはどれかひとつに絞れるものでもありません。私も会社をやっている1人の経営者としては、集客も大事だし、採用も強化したいし、会社のイメージも向上させたい。さらにシステムも使いやすいものであってほしいと考えています。
一方で、ウェブ制作会社の立場からすれば、マーケティングも成功させ、採用も強化させ、デザインで企業イメージの向上も支援し、システム全般もがっちりと開発提案するというのは、相当大変というか、現実的に、それをWebサイト制作だけで引き受け、実現するのは無理だとも思います。
仮にそのような全方位の目的を叶えることができるのだとしたら、経営ごと引き取っているようなものですので、その会社を買収したほうがいいかもしれないとさえ思います。
このように、ウェブサイトは、非常に多岐にわたるコミュニケーションツールであるがゆえに、目的の整理がそもそも難しく、ビジネス側と制作側での役割や責任範囲もあいまいになりがちです。
個人的な見解ではありますが、だからこそ、これまでの制作会社の多くは、上位目的にはあまり触れずに(上位目的は経営そのものに直結し、難易度の高い要件と重い責任を引き受けることになりかねないため)、「ウェブサイトを制作すること」を目的とし、制作のみを引き受けるスタイルに落ち着いているのではないかと考えています。
そして、上位目的にアクセスするスタイルとして、ひとつだけ発展したのが、マーケティング+Web制作です。
マーケティング領域であれば、ウェブ解析とともに、アクセス数やコンバージョン数など、ビジネス成果を定量的に示しやすいため、Webマーケティングという分野はビジネスとして受け入れられやすく、制作会社がマーケティング領域にも一部進出して、「マーケティングでの成果をもたらすことを目的とし、制作は手段とする」という会社へ発展したという印象があります。
ウェブサイトの機能(チャネルとメディア)について
少し話が変わります。
インターネットの普及とともに、ウェブサイトは現在、多くの企業が当然のように所有する自社媒体となりました。また、先述のとおり、マーケティング分野との親和性の高さから、ウェブサイトは、新規顧客を開拓するためのチャネルとしての役割を担うことができます。
一方で、ウェブサイト自体は、Webマーケティングという概念が始まる前から存在するものでもあります。
根本には、企業のウェブサイトには、自社のお知らせなど情報を発信する「メディア」としての機能があります。
たとえばコーポレートサイトには、新規顧客に限らず、既存の取引先、自社の社員、社員の家族、金融機関、公共機関など、その会社のことを知りたい関係者全員が目にする、「企業の顔」としての役割があります。
ウェブサイトには、集客のための「チャネル」と、情報発信のための「メディア」の2つの機能があると、私は整理しています。
この2つの機能をバランスよく(チャネルだけに偏ることなく、メディアとしても機能させるように)、最大限活かすことが、経営に役立つウェブの活用方法だと考えています。
ウェブサイトをメディア化する大切さ
ウェブサイト、特に、中小企業のコーポレートサイトなどであれば、そこに掲載されている情報は、「企業のイメージそのもの」と直結するはずです。
そのように整理すると、ウェブサイトの目的を「とにかく売ること」と設定し、ウェブサイトの成果指標を「マーケティング数値」と限定してしまうことは、短期的な視点になり、大切な部分を欠損してしまうリスクがあると考えています。
その会社の魅力、商品やサービスが選ばれる理由などを、丁寧にコンテンツ化し、企業のイメージをよりよくするような「メディア」として成立するようなウェブサイト制作し、運営をすることが、何よりも大切ではないかと考えています。
ウェブサイトはブランドのプラットフォーム
その意味で私は、ウェブサイトの目的を「売ること」ではなく、「伝えること」と考えるようにしています。
目指すのは、ウェブサイトを通じ、会社の魅力を伝えることで、自然とお客様から選ばれ、ファンが増えていくように、中長期の視点で機能させていくことです。
もちろん、ウェブサイトだけで簡単には、そのような状況はつくることができませんが、多くの人が「その会社の顔」として触れる、いわばブランドのプラットフォームであることは事実です。
ウェブサイトそのものが、その会社の人格を表すと考えて制作することが最重要と考えています。
そして、その考えを前提としたウェブサイトの企画制作の方法を、私は、「ウェブブランディング」と呼んでいます。
経営者が制作会社やウェブデザイナーに求めていること
経営者、特に中小企業やスモールビジネスのオーナーの多くの方は、ウェブサイトの重要性を感じていながら、その相談先をどのように見つければよいのか、どのように依頼すればよいのかに悩んでいらっしゃいます。
手前味噌になってしまいますが、私自身の経験からも、「会社の魅力をきちんと表現できるウェブ制作」つまり、「ウェブブランディング」を前提としたご提案をすることは、非常に有効です。
ビジネスオーナーは、きちんと対話し、相談に乗ってくれ、表現・発信したいことをWebサイトに反映してくれる「ブランディングのパートナー」のような存在を必要としています。
世の中の企業の99.7%が、中小企業・スモールビジネスです。
中小企業・スモールビジネスを、ウェブ分野から支援することで、世の中を活気づけていきたい。
ウェブサイトを作ることの目的の上位概念に、ブランディングの永続的なパートナーになることを提案し、その会社にとっての町医者のような、頼れる相談役を、ぜひ多くの制作会社やウェブデザイナーに担ってもらいたいなとも思います。
これから私がやりたいことは、単にウェブ制作をするだけではなく、この考え方に共鳴いただける方とともに学び合いながら、チームで小さな経営者のためのウェブブランディングを実践し、世の中を少しでも盛り上げていくことです。
もし、少しでも共感してくださる制作会社の方、Webデザイナーや、ウェブ業界に限らないクリエイターの方がいらっしゃれば、フォローいただけると嬉しいです。
少しずつ、その形や機会を具体的につくって発信していきます。