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Photo by
iwa_nori
雪が降る#シロクマ文芸部
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「雪が降る」
雪が降る前は、どうしてこうも静かなのだろう。
静まり返った音のない世界の音をただ聞いていると、やがてふわふわと綿菓子のような雪が舞い降りてくる。
ふわりふわりとタンポポの綿毛のように、それらは音もなく地面に着地する。
慌てて、曇った出窓のガラスを手で擦って、鼻先が触れるほど目を近付けた。
「ねぇ、雪、雪が降ってきたよ!」
しーんと静まり返った部屋の中に答えは返ってこないと分かっているのに、子どものような大声を上げて振り返ってみた。
居るのは、いつもと変わらずに黒い額の中で微笑む貴方と小さな骨つぼになったゴンだけ。
それでも私は此処に居る。たった独りになっても、此処に居る。
ふわりふわりと雪が降る。
目覚めると枕が涙で濡れていた。
雪は何処にも降ってはいない。
夢の中でさえ居ない貴方を忘れる事が出来なくて、あの日、二人ではしゃいで見た雪が心の中に降り積もる。
しーん、しーんと音にならない音を立てて私の中に降り積もる。
切なかろうと寂しかろうと凍える心を抱き締めて、それでも生きていかなくちゃ。
私は今日も此処に居て拙い筆をまた握る。
次に目覚める時は、雪が降る中、貴方に出逢えるといい。
ずっと以前に書いた物
ゴミ箱から拾って書き直しました。
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