見出し画像

流れ星【掌編小説】#シロクマ文芸部



流れ星が、私の指の隙間からこぼれ落ちた。
見上げた宙から、またひとつ弾き飛ばされたビー玉のように星が流れていく。

流れ星は死にいく星、寿命を全うした惑星や恒星が宇宙から外れて何処かへ旅立っていくと信じていた。
「あ……」
さっきから私の上に乗って、荒々しく腰を動かしている男が一瞬私の秘部を突いた。

「いい?ねぇ、いいの?」
「う、うん…とっても」

礼儀作法は幼い頃から両親に叩き込まれてきた。他人に不愉快な思いをさせてはいけない。
手を伸ばした先の高くて届かない宙で、またひとつ星が流れていく。

流れ星が彗星の撒き散らしたゴミ(塵)だって知ったのは、いつの日だったろう。
ゴミに願いを祈る?冗談じゃない。私の願いは、そんなに安っぽいものじゃない。

「あ…あぁ…」

名も知らぬ顔だけが取り柄のような薄っぺらい男が、私の花芯に気づいたらしい。柱頭は嘘をつけない。みるみると潤んで男根を熱く包み込み溢れ出した。


ペルセウス座流星群を見ようと家を抜け出して、漁師町のひなびた船着場まで自転車を走らせたのは、数時間前だった。小さな漁船が何隻もぷかぷかと黒い波間を漂っている。その姿は偽りで束の間の自由だ。きちんと足枷に繋がれた独りよがりの自由だという事をこの街に育った私は知っている。まるで大きくなり過ぎて母に、家の庭に繋がれたミックス犬のルルのよう。

ザラザラとした手触りのコンクリートの船着場にスカートのまま腰を下ろして、空を見上げた。漆黒の闇に星は瞬いてはいなかった。
「今夜も見られそうにないわ」 
諦めかけたその時、光が闇を切り裂いた。その光の後に大粒の雨が私の頬を濡らした。
「帰らなくちゃ」
雨は勢いを増して、私の髪をブラウスを無残に濡らしていく。停めた自転車に走り寄ると一台の車から声を掛けてきた男が居た。
「ずぶ濡れじゃない、乗っていかない?家まで送るよ」
「結構です」

ダーンッ

断って自転車で走り出そうとしたその時、辺りは闇から一瞬、真っ昼間の明るさを取り戻した。それと同時に地響きを立てるような雷鳴が響き渡った。
「ねぇ、本当に送っていくよ」



そして今、私は知らない男と此処に居る。
偶然に選んだ部屋の天井で、人工の流星群たちが私に束の間の夢をみさせていた。
私の柱頭は上手に嘘を付けても、子房は正直だった。
「いい?ねぇ、イクよ、いいの?本当に?あ、あぁ」
朽ち果てた知らぬ男を白く冷たいままの私の子房が受け止めた。子宮は嘘を付けない。
星が流れていくのと同時に、私の瞳から一筋の雫が頬に流れ落ちた。




それから十ヶ月後、私は本当の自由を手に入れた。
日々膨らんでいくお腹に田舎町で何を言われるかと気にした両親は怒りながらも、私の都会での一人暮らしをシブシブと承諾した。
あの日のツクリモノの流れ星が、私に与えてくれた宝の名は「流星」と言う。私によく似た男の子だ。(1164字)





#なんのはなしですか

小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。


起き抜けで小説書いたら、こんなもんでも
どんとこい(笑)
どんとこい秋2024

#どんとこい秋2024

起きようっと(笑)

いいなと思ったら応援しよう!