ブーケ・ドゥ・ミュゲ#シロクマ文芸部
木の実と葉が、さえずっている、
囁いている、ざわめいている。
公園のベンチに座り、カサカサと乾いた音を立てている落ち葉を踏みしめながら、私は本を広げて、その話に耳を傾けてみた。
「私の方がお姉さんよ」
木の実が言うと
「数十年経って、貴女はやっと私に成れるのよ。だから私の方がずっと年老いているの」
大きな樹に付いた一枚の葉が言う。
どっちでもいいじゃない。
私はクスッと笑いながら、恋愛小説にまた目を落とした。
「ブーケ・ドゥ・ミュゲ」
すずらんの花束と言うタイトルが付いたこの物語は、その可愛らしい名とは違い、何処か隠微な香りが漂っている。作者の青豆ノノ氏の作風のせいだろうか。
あの頃の私は彼女に憧れを抱いていた。今も青豆ノノ氏の新刊が出る度に本屋へといそいそと出向いて行く。
それはまるで初恋の人を遠くから、そっと見守り応援しているかのようだ。
彼女は「青」が好きだった。私の中の青い人は、青豆ノノさんしか居ない。
カサカサと音を立てていた枯れ葉達が、今度は私に向かって
「好きだったの?」
「ねぇ好きだったの?」
「女の人でしょ?その人って」
一斉に質問を浴びせかけて来た。
ええ、大好きだったわ、ううん、今も大好きよ。
「そうなんだ、そうなんだ、何故、会いに行かないの?」
何故かしらね?
良い思い出は、そのまま心の宝石箱にしまっておきたいからかしら。
「行けばいいのに」
「行っちゃいなよ」
「青豆ノノさん、きっと喜ぶよ」
でも、私のことなんて覚えているかしら。
「覚えてるよ」
「覚えてるよ、きっと」
ポツ、ポツ…霧のような細い雨が「ブーケ・ドゥ・ミュゲ」の一頁に落ちた。
私は本が濡れないようにパタンと閉じて立ち上がった。
青いヴェールのような霧雨が、秋の樹木たちを煙らせていく。
幸せなら、それでいいの。
憧憬とは、そういうものなのよ。
まだあなた達には分からないかしら。
踏みしめた落ち葉は、もうカサカサと音は立てなかった。
やっぱり明日、アマリリスの鉢植えを買いに行こう。すずらんのように囀る言の葉を私に投げかけてくれているあの人のために…
#シロクマ文芸部
小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。
PJ様
す、すみません(滝汗)
ノノさんへの想いを書こうと思ったら、
とんでもなく脱線してしまいましたm(__)m
こんな作品でも、よろしいでしょうか?
よろしくお願いします。