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「掌編小説」スキャンダル#青ブラ文学部





寂しかったの、ええ、それだけよ。

えっ、他に何かなかったのか?って
それしか私には、何の理由も思い当たらないわ。

顔を変えたこと?
別に逃げたかったわけじゃないわ、罪からね。
美しい方がスキャンダラスじゃない?醜い女に男達が振り向くかしら?
恋がしたかったのよ、私は恋がしたかったの。
じゃあ、寂しいのに、何故殺しちゃったのかって?
そうね、独身の私が独身の男と恋に堕ちたからって、それはどこにでもある普通の恋愛じゃない?

え?恋愛じゃ、まずかったのかって?
スキャンダルになりたかったの。
ねぇ、刑事さん
私を死刑にしてくれる?
三人殺したから大丈夫よね?
死刑になりたかったの。
だって、そうしたら寂しくないでしょう?
死んだら、もう二度と寂しくなんてないじゃない。

寂しいのと殺人の罪の重さですって?
私には、どちらも同じなんだけど…

そうね、例えば首を絞めて殺すのと滅多刺しにするのは、どちらが罪が重いかって聞かれているのと一緒かしら?
見た目の惨たらしさで、罪の重さが違うって言うの?
違うとしたら、血生臭さかしら?
首を絞めるのは怠惰で、滅多刺しはエゴかしら?
でも、どちらも行き着く先は同じでしょう?
だから孤独と殺人だって、私の中では同じ罪の重さなの。
殺人する為に愛したのかって?
それは違うわ。
愛していたから殺したの。ここは大きく違うの。この順番は譲れないわ。
愛したから理性がショボくなって、歯止めが効かなくなったのよ。



「分かりました、じゃあ、今日はここまでで」
白衣の中年の医師は、そう言うと穏やかに微笑んだ。
「〇〇さん、とても順調に回復してきていますね」

そう?
だって、此処は寂しくないんですもの。
また、お逢い出来るかしら?刑事さん。


「ええ、貴女が生きてさえいればね。じゃあ、次の人を橘くん」
橘と呼ばれた若い女性看護師が小さな老婆の車椅子を押して診察室を出ようとした。
「あ、橘くん、今夜、いつものところで」
医師の視線がナース服の上から、舐めるように橘の身体を這う。
「はい、先生、いつものところで」

その時、
ケラケラ〜〜
車椅子の老婆から乾いた高笑いの声が響いた。
「妻子ある医師と若い看護師の不倫、これも立派なスキャンダルね~」

「えっ?!」
医師と看護師が同時に声を上げた。
「あら?私、寂しくないから回復しているって、おっしゃったじゃない、先生」






スキャンダルに油断は禁物なようで…

山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。よろしくお願いします。

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