算命学余話 #G95「心の病と成熟度」/バックナンバー
前回の余話#G94では、社会が人間の愚かしさを支持・容認することで印(知性)の正常な活動を阻んでいる、という内容の話をしました。そこにはつまらない「思い込み」に囚われて視野の狭くなった現代人の、心の病や内面の劣化が見て取れます。ではそもそもなぜ人間は「思い込み」に囚われるのでしょうか。そしてなぜ現代人は昔の人間に比べてその傾向が強いか、或いは強いように見える、顕著に見えるのでしょうか。
この問いに対する答えのヒントを提示してくれる良書を紹介しましょう。春日武彦著『あなたの隣の精神疾患』です。『サイコパスの手帖』は作家の平山夢明氏とのエンタメ対談でしたが、こちらは精神科医としての専門的な見解と臨床例を連ねたもので、現代人と現代社会に対する厳しくも誠意ある指摘が一般読者からも支持されています。文章の上手い医師なので、読み物としても楽しめますが、やはり内容が際立っているので、上述の「思い込み」周辺の事情に関連する箇所を引用させてもらいましょう。
――人間は自分が鬱病であると思い込むと、それに執着し、自分の不調や悩みや時には不運さえもが鬱病のせいと解釈して、心を安定させようと無意識のうちに図ることがある。それがすなわち新型うつ病であり(従来型とは違う)、いささか意地悪な言い方をするならば、新型うつ病はある種の逃げ場や言い訳、自己弁護や自己憐憫のための便利な装置として機能し得るということだ。
――従来型うつ病は…いわゆる「社畜」などと揶揄される性格傾向に一致し、(真面目なせいで)自分が鬱病であることを恥と考えがちだが、これに対して新型うつ病だと自分が鬱病だとむしろ主張したがる傾向がある。
――新型うつ病の実体は、神経症、職場恐怖症、パーソナリティ障害等々が「うつ状態」を呈しているケースを一括してネーミングしただけであり、新型うつ病なる全く新しい病気が登場したわけではない。(にもかかわらずそのような認識が社会に広まったのはマスコミ等の誘導のせいである。)
――新型うつ病となる人たちは、…世間の非常さや会社のブラックさ、社会の残酷さによってもたらされる「犠牲者としてのうつ病患者」というドラマチックな立ち位置を求めたがる。彼ら(の一部)は自分勝手でズルいのだが、…同時に彼らはあまりに世間知らずで視野が狭い。ネット情報に従えば治ると思っているし、周囲の人たちの気持ちなど想像もできない。メンタルは子どもに近い。…先入観や思い込み、周囲からの暗示や雰囲気、情報操作や宣伝に容易に左右されて、「私の不調の正体はこれである」という着地点を見出す。その着地点は時代と共に移り変わって来た。例えば神経衰弱、病気不安症、ノイローゼ、といった具合に。トラウマやPTSD、解離性障害などがそれであったこともあり、最近までは鬱病がこれに該当し、次なる着地点は発達障害かもしれない。発達障害を抱えているがその分傑出した才能を持つキャラ、といったノリで。
――神経症(ノイローゼ)にはいくつかの特徴がある。①当人の人柄を偲ばせる症状である。②症状には物語性がある。③宗教やマジナイ、催眠術等で治せる可能性がある。
――ときに患者は神経症であることに安住してしまう。自分が病気であることによって自分はひとつの物語を背負った特別な人間となる。すなわち歪んだ自己肯定として神経症は機能し得る…ゆえに患者は神経症をなかなか手放そうとしない。
――驚くべきことに、どんな「ろくでもない」アイデンティティーであっても、ないよりはマシとばかりに人はおかしなアイデンティティーに(無意識のうちに)飛びついてしまうという事実だ。(例えば「運が悪い」や「世間の嫌われ者である」「世間知らず」「幼児的性癖」等々。)
――神経症の人たちの一部は、病んでいるのは辛いと語るものの、病んでいるがゆえにノルマが免除されたり同情されたり特別扱いされること(疾病利得)の方に価値を見出す。そうなると本心では病気から治ることを拒んでいることになる。つまり病気である方が幸福というわけである。
――確かに(心の病の)患者には被害者という側面があるだろう。…けれども病は横断歩道に突っ込んで来た暴走自動車とは違う。おそらく心の病については、以下の三要素がしかるべく作用した時に発病を促すと思われる。①体質・性格・生育歴。②環境とストレス。③運勢。
最後の「③運勢」には私も笑いました。少し上の「神経症は…③宗教やマジナイ、催眠術等で治せる可能性がある」にも笑いました。なぜなら、算命学を使った宿命鑑定によって依頼人たちの悩み(特に心の病にかかる悩み)を解決しようとする私の活動は、正にこれに該当するからです。私がお悩み相談に駆使する「宿命」は、現代医学の知識や治療法とは無縁のはずですが、「心の病」を読み解き或いは解決する手法としては有効であると、精神科医が認めているのです。いつの時代も「占いなど当たらない」と言われ続けているにも拘わらず、この世から占いの類が消えてなくならない理由は、こういうことだったのです。
鬱病に関しては『算命学余話#U15~鬱病を斬る~』で一度取り上げていますので、そちらを再読下さい。今回は、最近暴露本を世に出して話題となった(そして既に話題の去った)英国のヘンリー王子の宿命を例題に、『あなたの隣の』で述べられたような身近な精神疾患の背景について考察してみます。
仮にも一国の王子様を俎上に載せて解剖するのは忍びないですが、春日医師とはまた別の医師が、「ヘンリー王子は兄のウィリアム王子と同じ環境に育ったにも拘わらず、恨み言ばかり並べて大人げない」とその幼児性を批判していました。私もそう思いましたし、育った環境が同じであるにも拘わらず兄王子に幼児性がないというなら、弟の幼児性の原因は宿命に出ているかもしれない、とも思いました。そうしたわけで、鑑定実践を兼ねて、心の病、或いは精神の成熟度は宿命から読み取れるものなのか、或いは幼児性はどうやって発現するものなのか、考えてみます。
なお、『あなたの隣の』を隅々まで読めば、「従来型うつ病」は「新型うつ病」と違って明確な治療法、具体的には医薬品による治療効果が高いことが判ります。逆に「新型うつ病」にはこの治療法はほぼ効かない。つまり両者の治療法は全然違うということであり、即ち両者は全く別の病だということです。その別物の両者を混同するから治らない。後者は占いで治っても、前者に占いは全く効かない。こうした事実は正しく認識すべきですし、正しい認識のためには、当該書籍を斜め読みしてはいけなせん。ちゃんと最後まで読んで下さい。
いずれにしても、この混同を招き寄せるのは悪しき「思い込み」であり、「印」の欠如です。「思い込み」の災いについて前回余話#G94をお読み下さい。
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