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算命学余話 #G4 「飽きを考える」/バックナンバー

 遠い昔の時代の原始生物はまだ雌雄に分化しておらず、自分のコピーをつくって仲間を増やすという生存手段を取っていました。今で云うところのクローンです。クローンという現象自体は、新しいどころか大層古いものなのです。
 ところが我々がコピー機の使用時に痛感するように、コピーは繰り返せば繰り返すほど劣化が進みます。オリジナルから遠く離れるほど精度が落ちていく。これが生物に起きる場合には、オリジナルから遠く離れるほど個体の性能は劣化が進み、果ては生命力を失っていくということになります。要するに長生きできなくなる。コピーを繰り返す自家増殖では、生命は先細りだというわけです。
 そこである時から原始生物は、雌雄への分化を始めました。そして雄と雌で遺伝子を半分ずつ出し合い、自分の単純コピーではない新たな個体を誕生させたのです。お蔭でその後の個体は性能劣化に歯止めが掛かり、雌雄半分ずつ出し合う遺伝子の混合物の無数のバリエーションから、更に強靱で優秀な個体が次々と誕生することになりました。生物は、自家複製するよりずっと性能よく長生きもできる体を手に入れたのです。その延長線上に我々人類がいるのです。

 さて、このような生物学的な話がなぜ算命学余話の前座に掲げられているかといえば、勘のいい方はもうお気付きと思いますが、雌雄とは陰陽の話だからです。算命学は陰陽五行で世界を把握しようという思想ですから、すべての事象を陰陽に分けて考えます。昼夜、大小、強弱、剛柔、好悪、明暗、天地、そして雌雄です。
 人間に置き換えれば男女のことです。言うまでもないことですが、男女の交流があって初めて次世代は生まれるのです。だからこれと昨今流行りの同性婚などを同一視してはいけないというのは、算命学者にとっては自明のことなのです。
 子供の誕生を最初から放棄している同性婚は、膨大な家系論を誇る算命学が論じる対象にはなり得ません。それは単なる趣味の話です。但し、「同性愛の嗜好を持ちやすい」命式というのは、算命学も認めております。そして生物学界もまた、同性愛者の生まれる背景にあるものを既に科学的見地から見通しています。ここでは詳細は述べませんが、この世のいずれの事象も、何らかの合理性に基づいて顕現しているということは、生物学からも算命学からも辿れる結論なのです。

 今回の余話のテーマは、「飽きる」ことについてです。飽きるというと、何か退屈したとか、マンネリでウンザリだとかいった否定的且つ浅薄な意味で捉えがちですが、陰陽両面から物事を眺める算命学はそれほど否定的には考えません。むしろちゃんと意味があってそういう感情を抱くのだと考えます。では何のためにこのような感情が発生するのか。冒頭の「コピーの繰り返しが劣化を招く」話と合わせて考察してみます。鑑定技法の話ではありませんが、思考を深めることで、鑑定実践に寄与し得る話題です。

 食べ物に例えると判りやすいので、食べ物を考えてみます。私はもともと食べ物への関心が薄いので、平均的な日本食であるのなら、毎日同じメニューや同じ味付けであってもさほど不満は感じません。しかしながら、現在の日本食というのは世界標準からすると大層栄養バランスがよく、食材も豊富で、カロリーが低くても健康長寿を支えるに十分な内容です。味付けも多様ですし、何より発酵食品が多い。基本調味料である醤油と味噌はどちらも発酵食品ですから、これらで味付けするだけで腸内環境は花畑というわけです。
 つまり、伝統的和食を包括する現代の日本食というのは、一品料理の中に既に豊富な栄養素が含まれているのを、更に二皿三皿と小鉢を加えて栄養素を倍増しているので、この世のあまたの栄養素を一日三食のうちに漏らさず取り込むくらいの勢いがあるわけです。どこかの国の、ステーキに添え物のポテトと人参とクレソンしかないようなプレートとは訳が違います。

 加えて日本には明確な四季があり、季節ごとに旬の野菜や魚がある。だから通年を見ても食材はバラエティー豊富で飽きがこない。最近の日本人は野菜の摂取が減ったと言っても、世界標準からすればまだまだ豊富な食材と多彩なメニューが日常に溢れています。
 私は食材の乏しい国に暮らして、これを痛感しました。そういう国では食材も味付けもマンネリで、三日目にはもう同じメニューが回って来る。他にないからです。日本では食に注意を払わなかった私でも、さすがにウンザリしてきます。そして、その国の乏しいメニューをストレスに感ずる理由を考えるに、これは目新しさとか味覚の楽しみとかいう嗜好のレベルの話ではなく、健康に直結する問題だからだと、気付くことになりました。そうです、食材や調理方法の乏しい国で、私は病気がちになったのです。
では日本食礼賛はこれくらいにして、本題に移りましょう。

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