夏のキリンビール仙台工場、秋の夜長と香りの舞。
9月も半ばを過ぎたというのに、今日も今日とてお外は30度越え。それでもって帰りが遅くなってしまうとなると、ついついふらっと坂の下のコンビニへ。
夏の夜、コンビニから家までの急な上り坂だって、ほろよってしまえばこっちのもの。吸い寄せられるようにドリンクコーナーへ向かい、お会計をした手には緑色のカンカン。決め手は缶に「国産ホップIBUKI使用」と記されていたから。
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9月に入ったって30度を超える今年の夏は、とにかく暑かった。もう、外に出るのは危険。それじゃあ、屋内で遊ぼうとなってわたしたちが選んだ場所は、キリンビール仙台工場。
この夏はタイミングが合わなくて、たなばた祭りには行けなかったけれども。8月の間は街の至る所にその名残があって「仙台に帰ってきたんだなぁ」とホクホクした気持ち。
到着してまず一番に、工場見学のチケットを購入する。工場見学とジョッキの一番搾りとビール3種飲み比べで、500円。破格すぎる!
「安いねぇ」「すごいねぇ」なんてお喋りしていると、受付の紳士がわたしたちのもとへ近づいてきて、ちょっと緊張した表情で、でもゆっくりとはっきりと口を動かしながら手を動かし始めた。
【こんにちは。今日のツアーの内容です。少し古いですが、使ってください!】
それは、あの。紛れもなくわたしたちの使う手話だった。あんまりにもびっくりしてしまったわたしはつい
【えーーーー!手話できるんですか?すごい!!】
と手話で答えてしまった。彼の話によると、40年ほど前に大学生だった頃、手話サークルに通っていたことがあると言う。今回の工場見学は予約が必要で、そのとき申し込んでくれた聴者の友人が「聴覚障害者と一緒に行きます。こちらで通訳しますが、ご承知おきください」とひと言添えて申し込んでくれたとのこと。
きっとそれを見て、前もって準備をしてくださっていたのだろう。同行した友人もツアーの前に使われる単語をおおよそ把握してわたしと単語の確認をすることができたし、わたしも前もってどんな情報があるのか分かったので立ち位置などを考えやすかった。本当にありがたい。
そういえば。音声に老人っぽい話し方や若者言葉があるように、手話にも若者言葉やちょっと古臭い言い回しがある。手話サークルって、わりとご年配の聴覚障害者が講師になることが多いので、若者なのにおじいちゃんみたいな表現を使う人もうまれてしまいがち。(もちろん、地域によるのかもしれないけれども)
でも、彼の手話は明らかに女の子っぽい言い回しで。ふふふ。大学時代、好きな女の子が手話を使う人だったりしたのかしら?!なんて要らぬ妄想を膨らませてはついついニヤニヤしていたらツアーの始まる時間。
まずは、映像資料(こちらは、日本語と英語の字幕付きだった!)で日本のビールの歴史を学ぶ。あら、あの横浜の「生麦」ってキリンビールとも大きく関係していたのねぇ……なんて早速学びだらけ。
工場見学は、見て、歩いて、嗅いで、味わって、遊んで。五感で体験していくスタイル。
それから、実際に動く濾過機を横目に、一番搾りと二番搾りの麦汁をいただいた。一番搾り麦汁は濃い茶色、二番搾り麦汁は透き通った黄色と、色も全然違う。もちろん、お味も前者は甘味があって後者はスッキリとしていた。わたしは、一番搾り麦汁が好き。
そして、発酵を経て缶に詰められる。
ちょうど良い発酵具合になった出来立てほやほやのビールは、一瞬でも空気に触れると味が変わってしまうそう。蓋を閉めるのも時間との勝負。
ガシャンと蓋が閉まったら、あとは出荷を待つのみ。わたしたちも、このあとはお楽しみのビールタイム。
まずは、一番搾りを。キリンにはビアマイスターというビールを美味しく注ぐ社内資格があるそうで。そのビアマイスターさんに、一番絞りを注いでもらいました。
注ぎながら「ビールはお好きなんですか?」とか「どちらからいらしたんですか?」とか会話も楽しんでくださるビアマイスターさん。わたしも友人に通訳してもらいながら会話も楽しんできました。ありがとね。
一番搾りを飲み終えると、お次は3種飲み比べ。間に挟むおつまみと共に、味や香りの違いを楽しめる豪華なツアー。さっきの一番搾りも充分しっかりとしたお味だったけれども、プレミアム、黒生とさらにどっしりとした味わいに。
前述のとおり、ビールの原材料は麦芽とホップと水。そのうちホップの原産地の98%はこの東北産だとか。キリンでは今「IBUKI」というホップブランドに力を入れているということをこのときに教えてもらった。ふむふむ。
それでずっと気になっていたあの「IBUKI」が、坂の下のコンビニにあったので思わず手に取ってしまったわけ。
仙台工場でいただいたビールはどれも重厚な味わいが特徴的だったけれども、香りの舞はとっても爽やかで。一日の終わりにグビグビと身体中にツーッと入っていくさっぱりとしたお味でとてもとても美味しかった。
そして緑のカンカン片手に「そういえば夏休みにビール工場に行ってね……」と隣の人に話しながら、あの素敵な紳士の大学時代を思い浮かべてはキュンキュンして思わずニヤけていたら「あぁ、よっぱらりんの顔になってきたねぇ」なんて言われてしまった。
「わたしゃ一缶で酔っ払うようなヤワな女じゃないですよ!」と答えたけれども、ニヤケ顔は戻らない。ふうう。秋の夜長の缶ビールは、夏の余韻を感じられて最高だなぁ。