【第一回】ただの風景画?山水図ってなに?
水墨山水の歴史と様式
「水墨山水」という言葉を聞いて、皆さんはどんな絵を思い浮かべるでしょうか?険しい山々、深い谷、静かに流れる川、そしてその中にひっそりと佇む家屋……。掛け軸の中でも、最もスタンダードな図柄であり、長い歴史を持つものです。
その歴史は、鎌倉時代にさかのぼります。禅の教えとともに中国から伝わり、日本独自の表現として発展を遂げました。室町時代には雪舟(せっしゅう)という巨匠が現れ、名作を数多く残しました。彼の作品は、ただの風景画ではなく、見る者の心を別世界へと誘う力を持っています。
そういえば、2024年の春に京都で雪舟の展覧会が開かれました。平日でも会場は大盛況。彼が描いた水墨山水に目を凝らす人々の姿からも、現代においてなお、水墨山水が多くの人の心を引きつけていることが感じられました。
現代の水墨山水も、様式はほぼ決まっています。険しい山、流れる川、静かな谷――そこに描かれる家屋は、まるで世間の喧騒から逃れた庵のようです。このシンプルな構図に込められた思いこそが、水墨山水の魅力なのです。
水墨山水:心の理想郷を描く
水墨山水は、ただの風景画ではありません。
それは日本人にとっての“原風景”、心の故郷とも言われています。深い谷、流れる川、そして多くの作品に描かれているひっそりとした家屋。その風景は、都会の喧騒や人間関係の煩わしさから離れた「心静かな理想郷」を表しています。
もちろん、実際にその場所に住むことはできません。でも、水墨山水の掛け軸を飾り、眺める時間だけは、誰もがその理想郷へと心を遊ばせることができるのです。静けさに包まれ、心の余白を取り戻す――そんなひとときこそが、水墨山水がもたらしてくれる“癒し”ではないでしょうか。
ちなみに、水墨山水は「年中掛け」として知られる図柄です。ですが、言い伝えによれば「川の流れ」が縁起の良い話まで流してしまうとされており、縁談が控えている時やお正月には飾らない方が良い、と言われることもあります。少し古い言い伝えではありますが、知っておくと楽しみ方も深まりますね。
現代における水墨山水の楽しみ方
ところで最近、「瞑想」や「マインドフルネス」が注目を集めていますね。忙しい現代だからこそ、心を落ち着ける時間を求める人が増えているのかもしれません。
実は私も、たまに瞑想をしています。47歳、まだまだ初心者ですが(笑)。部屋の照明を少し落とし、静かな音楽を流し、水墨山水の掛け軸を飾る――そんな時間を作るだけで、不思議と心が落ち着いていきます。私の部屋は洋間ですが、それでも水墨山水の世界は違和感なく溶け込み、日常の喧騒から一歩離れる手助けをしてくれるのです。
和室だけでなく、洋間でも、自分なりのスタイルで楽しめるのが水墨山水の魅力。ぜひ皆さんも、日々の中に理想郷を取り入れてみてはいかがでしょうか?
次回予告
最後までお読みいただき、ありがとうございました!次回は年明けになりますが、「四季花」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに!