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美しい嘘は墓場まで

久しぶりに集まった二人の親友との飲み会で
僕は嘘つきをやっている


小学校から一緒の僕らは今では立派に社会人をしている

みんなの人気者でムードメーカーだった彼

どちらかというと大人しめで休み時間は読書だった彼

サッカーもするし、気分次第で読書もしてた僕

3人ともタイプはバラバラだったけど
家が近かったから放課後は決まって3人だった


お互いのことはなんでも知ってて
隠しごとなんてひとつもない

はず。



「これマジでめっちゃ良いから着てみ。あげるわ。」

ムードメーカーは乾杯を済ませてから
酔って忘れる前に、と
僕と読書にお高めのTシャツをくれた


いまはアパレル業界で働いているらしい

「修学旅行でも3人でお揃いのTシャツ買ったよな」

なんて、当事者以外だれも興味のない思い出話をしていると


ふと、中学校の時の話になった


「いや、ほんまに二人と一緒の中学いけてよかったわ」

と、読書。


というのも、僕とムードメーカーは二人とも
私立の中学を親に受験させられていた


「二人おらんかったら誰とも喋らず3年間終わってたかも(笑)」

「ほんまやで」と、ムードメーカー

「それは確かにあり得るな(苦笑)」と、僕は

一瞬、微妙な顔をしながら言う



実はこの私立受験、僕はふたりと同じ地元の公立に行きたくて

ほとんどの問題で鉛筆を転がした


ムードメーカーは別の私立を受けたのだが
あまり勉強が得意じゃないので
厳しいかも、とは聞いていた


進路や将来についてシビアな考えを持っていた
うちの両親だったので
「公立に行きたい」も
「鉛筆転がした」なんて

打ち明けたら、ぶっ飛ばされただろう



また、ふたりも優しさとか熱さを持っている奴らなので

「ぜったい合格しろよ」とか「頑張ってね」と

応援してくれていた


今では時効なのかもしれないが、

僕にとっての友情の証みたいなこの嘘は大切に守っている



そんな僕らの仲も一度か二度

崩れかけている。


それは僕とムードメーカーが同じ人を好きになった時だ

結局、その時はムードメーカーが「別の人を見つけた」と言ったため


結果、僕はその人とお付き合いすることになり
おかげで、超平凡な僕の高校時代が
ちょっとだけ青春している高校生のそれになった


その人とは今でも続いていて


最近ではさすがに将来の話まで話すようになった


「あの子とうまくいってる?」と、読書

「順調。あの時、新しい人見つかってなかったらヤバかったかもな(笑)」 と、僕


「確かにな(笑)」とムードメーカーは

笑いつつも、一瞬微妙な顔をして言った




久しぶりの再会は本当に楽しく、

僕が鉛筆を転がした嘘のおかげで今でも一緒にいてられると思うと

少し、得意げな気分になって

二人とはこれからもいられそうな気がした



-EIJI-

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