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僕だけのヒーロー

学校には行きたくない

理由は言いたくないけど
とにかく行きたくない

楽しくないから


朝の会に思うことは
”はやく帰りの会やりたい”

早く帰りの会がやりたいのは
学校が楽しくないからだけじゃない


帰り道に一つだけ楽しみがある

いつも同じ神社に
”社長のじいちゃん” に会いにいく

傘を忘れた日、
入れてもらう友達もいない僕は
神社の屋根の下に座っていた

そしたら隣にひとりおじいちゃんがいて
二人でしゃべった

雨は止まなかったけど
おれは家が近いから大丈夫と
じいちゃんが傘をくれた

じいちゃんは社長らしくて
子どもが3人いてるらしい

いつもトイプードルを連れていて
同じTシャツをきている

トイプードルはリードをつけていない

でも逃げていかない
じいちゃん後ろをついて回る

日常で楽しい時間がない僕の唯一の友達

しかも、社長なんて。

誰からも相手にされない僕からすればヒーロー以外のなんでもない


僕は家にも帰りたくない

理由は言いたくないけど
とにかく帰りたくない

楽しくないから


だから今日もじいちゃんに会いにきた

「おお坊主。」

今どき、子供のこと坊主って呼ぶなよ。

じいちゃんはいつも黄金糖をひとつくれる

「坊主、友達おらんのけ?」

「いらへん。じいちゃんも犬しかおらんやん」

「金いっぱい持っとったらな、友達みたいなフリする奴がいっぱいきよんねん」


やっぱりすごい


「じいちゃん、なんでいつも同じ服なん」

「社長に服選ぶ時間なんかないねん」


いつも楽しく話して
ふと、はよ帰り。と言われ帰らされる

家に遊びにいっていいか聞くと
捕まるからあかん。とかわされる

バイバイと言うと
少しだけ寂しそうな顔をして
おお、またな。と言う


いつもえらそうなじいちゃんのその表情をする瞬間が好きだった


僕が5年生になって
じいちゃんのいる時間に下校できるのは
水曜日だけになった


僕の帰り道には大きな工事現場がある

いつから始まったか覚えてないぐらい
ずっと大きな工事をしている

6時間目まで受けた僕はひとりで帰っていた

今までシートに囲われていた工事現場の
シートがなくなっていた

中は東京タワーみたいなやつを作っていたみたい

なんかよくわからないけど
ぼーっと眺めながら歩いていると

リードをつけていない犬が
ひょこひょこ歩いていた

アッ、と思って
中を探すとやっぱりじいちゃんがいた

じいちゃんは社長なのに
自ら働いてるみたいだ

じいちゃんは社長なのに
ヘルメットをつけてるみたいだ

じいちゃんは社長なのに
若い人に怒鳴られてるみたいだ


あんなに大好きだったじいちゃんが
なんだか違う人に見えた



次の水曜日、
僕は真っ直ぐに家に帰った

次の水曜日も、その次も。


卒業が近くなった僕は
親に無理を言って
地元から離れた私立に行くことが決まっていた


卒業式の日、
みんな友達とその親と
写真を撮っている

さすがに楽しくなさすぎて
僕はさっさと帰っていた


この学校も帰り道も最後だと
清々しく思っていた


あの神社を通る

ちょうどあの時間


入ってみるとやっぱりいた

「おお、坊主」

変わらないじいちゃんがそこにいた

僕の胸についた花を見て
おめでとうな。と言う

「じいちゃん、今日で最後やわ」

「ほんまか寂しなるな」

ちょっと待っとけよと言って
どこかに走っていったじいちゃんは
箱を持って戻ってきた

「これやるわ」

開けるといつも着ているTシャツと同じものだった


それからじいちゃんが社長でないこと、
わけあって家族と離れていること、
トイプードルが社長のペットなこと、

全部聞かされた

会いに来なくなった理由を話すと
悪かったな〜と笑っていた

なんでTシャツをくれたのか聞くと
これだけは本当にいいものらしく

子供にあげようと思っていたが
なかなか再会することができずに
持っていたものだったらしい

友達のいない自分にはヒーローだったと言うと
見る目ないなあ。と笑っていた

リードをつけていないのに犬が逃げないじいちゃんも
雨が降ってるのに傘をくれるじいちゃんも
最後に宝物をくれるじいちゃんも


たった一人の友達で
めちゃくちゃにヒーローだった


-EIJI-


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