初めてのクリスマスプレゼント
玄関のすりガラス越しにお向かいさん家の青いイルミネーションが見えた
「あ。」
僕は今日がクリスマスイブだったことに気づく
毎年クリスマスには寂しいような、切ないような、
でも暖かいような気分になる。
小さい頃、裕福な家庭ではなかったため
うちにサンタは来なかった
学校で、サンタさんに何を頼むかと
みんなが相談しているあの時間が本当に苦痛だった
みんなに合わせて
本当はひとつももらえないプレゼントの候補をいくつも出す
小さいながらに見栄を張って
見栄を張ることの辛さも噛み締めた
また、妹2人には少しでもクリスマスらしさをあげたくて
図工の時間に余った折り紙を持って帰って
一緒にクリスマスツリーを作った
妹A「ことしはサンタさんくるかな?」
「ギクッ」という効果音が
こんなにも鳴り響いたことは
後にも先にもなかった気がする
何年か経ち、
妹たちも”我が家にとっての”クリスマスとはなんぞや
を、理解しだして
中学生になった僕は手製のツリーを作ることもなく
クリスマスにはただ時間を早く過ぎさせる方法を探すようになっていた
ある年のクリスマス
日本列島と日本中のカップルが大寒波に包み込まれ
各地で雪が降った
学校から帰ってくる途中
近所に住むおばちゃんが困っているのを見つけた
風で自転車が倒れていたのだが
その上から雪が積もり
雪男が寝転がっているような
もう何がなんだかわからない様子だった
「あのー、手伝いましょうか?」
素通りすることに気が引けた僕は声をかけてしまった
まあ、これはこれで時間が潰れていいかと
思いながらも
無事、自転車を救助することに成功した
「ごめんね、こんな日に。パーティーでもするだろうに。」
(んー。そういうセリフが一番きついかも。)
「あ、いえいえ。うちは毎年何にもないですので(笑)」
自転車救助を手伝わせたことか、
気まずいところをつついてしまったことに
おばちゃんは申し訳なさそうな顔をして
「じゃあ、もうちょっとだけ付き合ってくれる?
クリスマスツリーを出すの手伝って欲しいの。」
この展開から断るパターンを知らない中学生の僕は
クリスマスツリーを一緒に出した
帰りがけ、
「ありがとう。こんなものしかないんだけど。」
おばちゃんはそう言いながら
茶色い箱を僕に渡した
「うち、服屋なの。メリークリスマス。」
箱を開けると長袖のTシャツだった
真冬に?
Tシャツ?
季節感などありゃしないとなるのだろうが、
その時、僕は、
言葉にすることなど、
その感情に無礼だというほどの
嬉しさが込み上げてきた
”ありがとうございます”で事足りるのかと
不安ながらも
「ありがとうございます」と頭を下げた
顔を上げると、
おばちゃんの暖かい笑顔があった
「気をつけてね。」と言葉を添えられて、
僕は箱を抱えながら走った
ものすごい寒さの中を走ったはずなのに、
帰ると汗でびっしょりだった
冬休み明け、制服の中に
もらったTシャツを着て学校に行った
「あ、おれ?今年はTシャツにしたよ」
毎年、もらっているかのような顔をして言った
あのセリフは気持ちがよかった
お向かいさんのイルミネーションで思い出した
切ないような、あのクリスマスたちは
ある程度、好きなものを買えるようになったいま
暖かくてエモいなあ。と
また違った顔を見せた
-EIJI-