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ペンと旅【長崎編】

旅について

旅に出たくなった。人間は制限がかかると、途端に制限されたものが恋しくなる生き物だ。外出自粛の今、ボクは旅への思いが強くなっている。

ボクの旅。それは、いつもペンとフットボールと一緒だった。旅をしたいと言いながらも、基本的には出不精。面倒くさい性格だと思う。

フットボールが仕事になり、チーム遠征に帯同して全国各地を飛び回れたのは、いまにして思えばラッキーだったと思う。

旅に出られない今だからこそ、おうち時間で旅を振り返ってみたい。

【長崎編】

長崎、ボクの心は雨だった

長崎と言えば、ジャパネットたかた。幼い頃はカステラ、長崎ちゃんぽんだったけど。ジャパネットが急浮上してきたのは、オヤジがジャパネット専用チャンネルを観ていたからだ。ちなみに、オヤジが買った電子辞書は使われぬまま、リビングでホコリをかぶっている。

そのジャパネットが、まさかV・ファーレン長崎の経営を引き受けることになとは。当時は想像もできなかった。いまやスタジアムは諫早から長崎駅前の一等地に移転することが決まっている。高田明氏の行動力には驚くばかりだ。なにが起こるかわからないのが人生。改めてそのコトバの重みを実感している。

旅先では油断禁物

なにが起こるかわからない。つまり、それは、いいコトが起こる時もあれば、良くないコトが起きる可能性がハーフ・ハーフであると言える。

初めての長崎。駅に着いてからホテルまで歩いた。道の左右にはカステラ屋さん。本当にカステラのまちなんだなと実感し、関東ではお目にかかれない価格の高級カステラがあることを知った。

この時は、いわゆる前乗り。翌日のお昼に開催される試合に備えての現地入りだった。夕方に着いたので観光する時間はなく、いつものごとく先輩記者と地のモノを食べに出掛けた。今にして思えば軍艦島に行っておけば良かったと後悔している。出島に行けたのは良かったけど。

先輩と訪れたのは、地元新聞社の記者さんに紹介されたお店。この安心感が命取りになった。教えてもらったからといって油断してはいけないのだ。

2人で一万円じゃないの?

座敷席に通されたボクたちの接客をしてくれたのは、明るく人当たりのいいおばあちゃん。メニュー表を眺めていると、あちらからオススメを紹介してくれた。

郷に入れば郷に従えではないけど、地元の旬のモノは地元の人が一番知っている。ボクと先輩は、おばあちゃんにすすめられたモノを中心に料理を頼んだ。

注文したものをすべて覚えているわけではないけど、カラスミ、クジラ肉の盛り合わせは、しっかりと記憶している。なぜ、覚えているのか。この2品がおそらく会計の際のカギを握っていたからだ。

焼酎で乾杯して長崎料理を堪能。翌日に向けて英気を養い、さてお会計。「一万円ね!」とおばあちゃん。ボクと先輩は基本的に食事は割り勘にしている。5000円ずつお財布から出した時だった。「違う、違う。ひとり一万円ね!」。おばあちゃんのコトバに耳を疑った。加えて、おばあちゃんのコトバには、「サービスして一万円だからね」という嫌らしさがあった。

いつもは食い倒れるボクと先輩だが、この日は腹8分目だった。いつもよりお酒も料理も頼んでいない。どう考えても会計がおかしい。2人とも首をひねりながらも、地元新聞社の方に紹介してもらったこともあり、ごねるのはやめておいた。

渋々、一万円を払って店を出ると、「旅行客、歓迎!」の看板が掲げてあった。それは大歓迎だろう。ぼったくりができるのだから。ボクと先輩は珍しく毒づいた。

時の流れに身をまかせていたら大変なコトに

翌日、スタジアムで地元新聞社の方に「あの店、おいしかったでしょう?」と声を掛けられたけど、2人ともコトバに詰まったのは言うまでもない。苦笑いが精一杯だった。

カラスミ、クジラ肉の「時価」が支払額を跳ね上げたのだろう。市場価格の変動により値段が決まるのが時価だそうだが、お店が独自に決められる、ある意味いくらにでも設定できる。

カラスミ、クジラ肉とも地元の人間でないと相場が分からない。だから、旅行客歓迎なのだろう。

チームには昨晩のボクたちのリベンジをしてほしかったけど、さすがは名将・高木琢也だった。長崎は相手のキープレーヤーを徹底的に無力した。具体的に言えば、ボールに触れさせなかった。当時のキープレイヤーは、中盤でのボール奪取に秀でていた。そこがカウンターのスイッチになっていた。長崎は失点のリスクを回避するためにロングボールを多用した。パスカットからのカウンターは鳴りを潜め、チームは0-2で敗れ去った。

この敗戦により快進撃は止まった。見えていたJ1昇格プレーオフ圏内が霞んだ。つないできた希望は潰えた。

夜のぼったくりに憤り、昼の痛恨の一敗に悲嘆した。長崎にはいい思い出が、ひとつもない。あえてポジティブに捉えるならば、人生はいいコトばかりでない。そう教えられたことだろうか。

時の流れに身をまかせていたら大変な目に遭った。人生には失敗も必要だけど、ぼったくりはもう勘弁だ。

おもいのままに。続けます。今日も呼吸ができた。ありがとう!


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