見出し画像

「夢幻回航」18回 酎ハイ呑兵衛

「いくらだ?」
世機は西園寺時子の様子が見たかったので、聞いてみた。
西園寺の目が、円マークかドルマークか、兎に角お金の事しか頭にない状態になる。
「まいどあり」
反応からすると、きっともの凄く高価なのだろう。
沙都子も気が付いて、世機の腕を引っ張る。

「今月ピンチなのよ?」
お前が言うか?と、世機は突っ込みたくなったが、黙っておいた方が、今後のためだなと、納得する。
沙都子はもっと高価なものを購入したのだ。
だけど、ピンチって?その程度の貯蓄なのか?まだ大丈夫だろう?
世機は沙都子を睨む。
沙都子は口笛を吹いて誤魔化す。
おいおい、かなり貯めておいたはずだが?
冗談だろ?
スマホでチェックして、沙都子が自分をからかっているのを確認して、一安心した。

「両方とも、在庫がないから、後で届けるよ」
「自宅でいいんでしょ」
西園寺時子の瞳は、円マークに染まっている。
「お支払いは、後日で良いのかな?」
沙都子が恐れ気もなく尋ねる。
オレも、固唾をのんで返答を待つ。
「もちろん、後でも良いわよ」
と、西園寺。
「分割は?」
世機も食い下がる。
「もちろん一括のみ」
西園寺時子は明るく答える。

「で、お幾らになるのかしら?」
引きつった笑顔で、沙都子が笑う。
「234万3623円税込よ」
時子はニッコリと、これ以上にないくらいの極上の笑顔で答えた。
世機は頭を抱えて、沙都子の顔はさらに引きつる。
おいおい冗談かよ!今回は、入ってこないかもしれないんだぜ?
もちろん収入の事。

雇い主は死んでいるし、連盟や協会の仕事になると、お金が発生しない事もあるのだ。
今回の件は緊急事態であると見止められれば、私財で戦わないとならない場合だって有る。
本当に!
あとで連盟に、山田に聞いてみよう。
沙都子と世機は一応請求書をもらう事にした。
経費で落ちるとは思わないけれど、彼らの財布は有限なのだ。
それに、私財をなげうって戦う理由は少ない。
意地だけで武器は揃えてみたが、もらえるものならば、もらっておきたいのが人情だ。
「世知辛い世の中だな」
時子がしれっと言ってのけた。

時子はコーヒーと軽食の他に、ケーキも追加注文した。
笑顔が絶えない。
この美少女風おばさまの笑顔がこんなに忌々しく感じたのは、何年ぶりだろうか?
沙都子の顔がさらに引きつり、世機は溜息をついて、さらにこちらも追加で店の自家製ケーキを発注した。
沙都子も仕方なくそれに付き合った。

本当に、西園寺時子の一人勝ちと言った所か。
沙都子も事態を諦めて、溜息をついてコーヒーを一気に飲み込んだ。


ここから先は

0字
100円に設定していますが、全ての記事が無料で見られるはずです。 娯楽小説です。ちょっと息抜きに読んでください。

夢幻回航

100円

アクションホラーです。 小説ですが気軽に読んでいただける娯楽小説です。 仕事の合間や疲れた時の頭の清涼剤になれば嬉しいです。 気に入ってい…

この記事が参加している募集

サポートしていただければ嬉しいです。今後の活動に張り合いになります。