初めてのアルバイトで猛練習したアレ
初めてアルバイトをしたのは16歳の夏。
ファーストフード店だった。
初出勤の前夜、真新しい制服に身を包み、ガラケーで写真を撮りまくった。それから両親・きょうだいと散々お店屋さんごっこで盛り上がった。
「いらっしゃいませ!」
「ご一緒にポテトはいかがですか?」
もっと笑顔で!お辞儀は丁寧に!と熱血指導を受けながら接客の練習にいそしんでいると「お釣りを渡すときにもたつくのはよくないんじゃないか?」と家族の誰かが言い出した。
それは確かにそうかもしれない、とお札を数える練習をすることになった。「ごせんろくせんななせんはっせん……」と口に出すのと同じスピードでお札をめくれるよう、家族総出でお札めくり練習部が一夜にして結成され、「誰が一番スマートにお札を数えられるか」と競い始めた。
母は経理の経験があったため、最後の一枚のところでパンッと音を鳴らして数えて見せたから大変。「おぉぉぉ!すげぇ!」と、我も我もとパンっと音がならせるようにひたすらお札を数えた。
何時間経ったか分からないが、そのうち私も「ななせんはっせん…きゅうせんえんのお返しです」と口で言うと共に、お札をパンッと鳴らせるようになったところでお札めくり練習部は解散となった。
父も母も、これにて免許皆伝みたいな顔で頷いた。
翌日、不安の中に「お札めくり」という1%の武器を持った若き店員が誕生した。
「い……いらっしゃいませ!」
滑り出しは順調。
多少のミスやたどたどしさはあったとしても、16歳という初々しさとスマイルという誤魔化しで、なんとなく色々なことが許されているうちに3か月ほどが経過した。
その間、私はお客さんが来るたびに「1万円札出せ…!!」と心の中で念じていた。
見るからにお金持ちそうな殿方がくると諭吉に見えたもので、まるでパパ活女子みたいな言い方だけどそうではなくて、1万円札を出してくれたらお釣りをパーンと鳴らせるからである。
千円札の札束をコネコネしてちょっとずつずらし「ごせんろくせんななせん…」「八千円」パァン!と鳴らせる私ってめっちゃかっこいい、と自分に酔いしれていた。その瞬間だけに全力投球していたともいえる。
そんな折、16歳の私に最大の困難がやってきた。初めての、殿様との出会い。
……なんだけど、この話は【電子書籍版#なんのはなしですか】に収録予定です。
今気づいたのだけれど、初々しさこそが最大の売りである16歳が、お金の数え方だけ異様に手馴れていて最後にお札をパンッと鳴らすのはいかがなものだろうか。逆にいやらしくない?
家族の誰もそこに気づかなかったのか。娘に教えるところ、そこじゃなくない?と突っ込みたい気持ちでいっぱいである。
ちなみにこの技は、後に「お客様の前で250万を素手で数えなくちゃいけなくなった時」に大変重宝した。
▷ちょっとおかしな家族の思い出
▷その後OLに
▷いつきさんの賑やかし帯はこちらから