医療逼迫の中、どうやって自分や家族を守るか(JES通信【vol.151】2022.08.10.ドクター米沢のミニコラムより)
前回のコラム(7月11日。資料1)で、「再び感染者増のきざし」と書きましたが、その後あっという間に感染拡大し、8月3日には国内の新規感染者数が過去最多を記録する事態になりました。私を含め多くの人にとっては予想を遙かに上回るスピードだったのではないかと思います。そして今、医療現場は大混乱に陥っています。
●発熱外来、救急現場がパンク
連日報道されていますように、発熱外来に長蛇の列ができたり予約が取れなかったり、病院に行っても受診を断られたりといった話が後を絶ちません。また救急車を呼んでも到着まで2時間かかったとか、搬送先が見つからず自宅に戻ったという話もあります。
●限られた医療資源を緊急性の高い患者さんに提供する
このような状況では、コロナの患者さんだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などの急性の病気、事故で大けがを負ったような緊急性の高い人も適切な医療を受けられません。大地震などの大規模災害で多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度や重症度に応じて治療の優先度を決めることをトリアージと呼びますが、コロナ第7波は急増した患者数が医療機関の対応できるキャパシティを超えており、対応の優先順位を決めなければならない「非常事態」にあります。判断を誤ると助かる命も助からなくなるのです。
●4学会が声明を発表
この状況を踏まえ、8月2日に日本感染症学会、日本救急医学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本臨床救急医学会が合同で、「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」(資料2)を出しました。現状において医療を少しでも有効に機能させるための提言で、「発熱外来受診や救急車利用の判断の目安」を示しました。
●受診・救急車利用の目安
声明の要点を記載すると以下のようになります。
1.新型コロナを疑う症状が出た(下記※1)
↓
2.学校や仕事を休んで自宅療養を始める
↓
3.次のどれかに当てはまるか?
・症状が重い(下記※2)
・発熱が4日以上続く
・65歳以上
・基礎疾患がある
・妊娠中
↓
1)どれにも当てはまらなければ自宅療養を続ける
2)上記のどれかが当てはまる場合
↓
かかりつけ医や近隣医療機関に相談、あるいは受診して(オンライン診療も含む)、指示を仰いでください。基礎疾患については資料2でご確認ください。
なお、顔色が明らかに悪い、唇が紫色になっている、急に息苦しくなった、日常生活で少し動いただけで息苦しい、胸の痛みがある、横になれない、意識がおかしい(意識がない)などの時はためらわず救急要請してください。
※1 新型コロナを疑う症状
咳、鼻水、喉の痛み・違和感、だるさ、筋肉痛、発熱、頭痛などのいわゆる風邪症状です。普通の風邪に比べると、だるさや喉の痛みが強い印象があります。
※2 症状が重いとは?
37.5℃以上の発熱が4日以上続く、水分が飲めない、ぐったりして動けない、呼吸が苦しい、呼吸が速いなどの症状。乳幼児ならば顔色が悪い、機嫌が悪いなどの症状が見られる時です。
1)による自宅療養の留意点
昨夏の第5波(デルタ株による)までは、肺炎が急に進行し病状が悪化することがありましたが、ワクチン接種済みの方はそういったことが少ないため、自宅療養の安全性が高まりました。また新しく開発された抗ウイルス薬は重症化リスクのある方にしか投与されません。症状が軽い場合は街の薬局の薬剤師さんに相談して薬を購入してください。水分をしっかり摂って脱水にならないように気をつけましょう。
●自宅療養では抗原検査キットを活用する
1.やっと抗原検査キットが使えます
抗原検査キットについてはこのコラムで何度か触れましたが、今回の第7波を受け、国はやっと抗原検査キットを無料で配布する方針を打ち出しました。すでに配布を開始した自治体もあります。また今月中にネット販売も解禁になるようです。
産業医活動の一環として各社の衛生委員会で講話を行っていますが、私が抗原検査キットの活用に初めて言及したのは2020年2月です。2020年5月にはキットが発売され、PCR一辺倒だった防疫の形が変わると期待しましたが、そのような変化は起きませんでした。2021年3月に英国が全国民に無料で検査キットを配布し始めたことを知り、以来、産業医の仲間と共にキットの活用を訴えてきましたし、当社でも昨年からスタッフの健康管理に活用しています。
2022年7月の時点で国は検査キットの在庫が1億8,000万回分あると言っていましたが、キット不足が問題になっています。流通のどこかに問題があるのでしょうが、もう少し待つと状況は改善されると期待しています。
2.抗原検査のメリット
抗原検査のメリットは、いつでも、どこでも、何度でも検査が行えることです。最大のメリットは「速さ」です。手元にあればすぐ使え、その場で結果がわかり、陽性ならば即隔離ができて感染拡大を防げるのです。コロナウイルスは10時間で1000倍に増えるそうなので、速さはとても大事です。
抗原検査はPCRに比べ精度が悪いから推奨しないという言い方が長らくされてきましたが、検査精度は上がっていてウイルス量の多い時期ならばPCRとほぼ同等です。そしてその時期が「感染力の強い時期」なのです。つまりその人が「他人にうつすだけのウイルスを持っているか」を調べるには抗原検査がちょうどよいのです。逆にPCRでは症状がよくなって1、2週間経っても検査が陽性に出てしまうので(ウイルスの残骸を検出する)、感染力の判断にはあまり役立たないのです。PCRは医療機関が正確な診断・治療を行うために必要なものであって、防疫目的には合いません。たとえて言えば、山を眺めるには10倍の双眼鏡で十分で、300倍の望遠鏡では拡大されすぎて山の形(感染力)がよくわからない、というようなものです。目的に合った道具を使うことが大事です。
3.自分で複数回の検査をする
コロナを疑う症状が出て自宅療養を選択した場合、ご自分で抗原検査キットを入手し、感染を確認しておくことをお勧めします。隔離の目安ができますし、万が一病状が悪化し受診する場合に、「コロナ陽性です」という事前情報が医療機関に役立ちます。
また、喉が痛い、だるいなどの症状が出ているのに抗原検査陰性の結果が出ることがあります。これはワクチン接種済みの方が感染した場合(いわゆるブレイクスルー感染)に起こりやすい現象のようで、感染初期は体の免疫がウイルスと戦っていてなかなかウイルスが増えず、検査が陰性になってしまうのです。
症状が続いている場合は翌日か翌々日に再度検査してみてください。あるいは1日だけ微熱が出たとか、軽い熱中症みたいだとか、エアコンで喉をやられたかな?というような時もコロナの可能性があります。念のため人と会うことを控え、1日おきに3回くらい検査してみてください。いつでもキットを使えるように、家庭で常備しておくことをお勧めします。
4.職場は陰性証明、陽性証明を求めない
発熱外来がパンクする原因の一つが診断書・証明書の発行です。職場では、感染爆発期の自宅療養を、自分で行う抗原検査による陽性判定で承認しましょう。診断や証明書のためだけに受診を促さないようにしてください。
5.隔離期間は無症状7日間、有症状10日間(以上)
無症状が続く方の隔離期間は7日間です。症状がある方は発症日から10日間が経過し、かつ薬剤を使用していない状態で解熱・症状軽快して72時間経過していることが必要です。10日を過ぎても軽い症状が残る場合は、抗原検査で2日間連続の陰性を確認し出社してもらうのはありうる選択です。この場合、現在必要とされる隔離期間を超えた念のための検査になるため、キットの費用は職場が負担するのが望ましいように思います。
●濃厚接触者の待機期間の短縮について
社会経済活動を停滞させないために、濃厚接触者の待機期間が短くなってきました。7月22日には待機期間が原則5日間に短縮されました(資料3)。さらに検査を実施すれば最短3日の待機でよいとされたのですが、3日で解除はさすがに短くないかという話が医療関係者から出ています。オミクロンの場合、潜伏期間が従来株の平均5日に対し3日に短縮しているのですが、資料4の図表を見ていただけばわかるように、3日目までで半数の人しか発症していないのです。できれば5日目までは慎重に行動されることをお勧めします。最新科学を活用して感染対策と社会活動の両立を目指しましょう。
資料
1)再び感染者が増える中で何をするか
(JES通信【vol.149】2022.07.11.ドクター米沢のミニコラムより)
https://note.com/sangyo_dialogue/n/n0840fe4e5734
2)限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明
https://www.pc-covid19.jp/files/topics/topics-36-1.pdf?fbclid=IwAR0s67lM7Om43XxOhLDVet0eSyVxUS92A3hmgUpjRiXimhROle4Eqq1RbIY
3)緩和は進むか? 新型コロナの濃厚接触者・陽性者の待機・隔離期間 現時点でのまとめ(追記あり)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220723-00306843
4)医療機関や高齢者施設でも濃厚接触者の待機期間を短縮しても安全なのか?
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220724-00307068